はじめに

ピボット旅行2026、最終日。ここまでの旅では、実に様々なピンチに遭遇してきました。

天候による旅程変更。雨の中での移動。予想外の出来事。そして、その都度行われた脳内ゴリラルームによる判断。

しかし、今回の旅における最大のピンチは、そんなものではありませんでした。それは、岡山で昼食を食べ終えた直後のこと。しかも、その危機を救ったのは、ほんの数時間前の何気ない判断だったのです。

雨の後楽園

最終日の目的地の一つ、岡山後楽園。あいにくの雨模様でしたが、ここで筆者の目を引いたものがあります。

彼岸花です。

今回の旅行では、尾道でも雨に濡れた彼岸花を撮影していました。秋の訪れを告げる鮮やかな赤。雨に濡れることで、その色彩はいっそう際立ちます。晴天の下で見る花も美しいものですが、雨の中だからこそ見られる景色というものもあります。

尾道に続き、岡山でも出会えた雨の彼岸花。結果的に、今回の旅を象徴する被写体の一つとなりました。

そんな後楽園への入場時、ちょっとした出来事がありました。入場料の支払いにSuicaが使えたのです。これまでの旅行でも、交通系ICカードやデビットカードを活用してきた筆者。

現金を取り出す必要もなく、いつものように支払いを済ませました。このときは、単に便利だと思っただけでした。

これが後になって、とんでもない伏線だったことが判明します。

岡山名物、えびめし

後楽園の散策を終えてのランチタイム。岡山に来たからには、やはり地元の名物を食べたいところです。そこで選んだのが、岡山名物の「えびめし」。

名前だけ聞けば、海老の入った炒飯のようなものを想像するかもしれません。実際に目の前に現れたのは、独特の黒褐色をしたご飯でした。カレーの風味を感じさせる、カラメルソースを使った味付け。

一見すると濃厚そうな色合いですが、口に運んでみると、香ばしさと旨味が広がります。そこに加わる、プリプリとした海老の食感。

これだけでも十分に満足できる一皿ですが、今回の食事には更なる主役がいました。有頭海老フライです。サクッとした衣の香ばしさ。海老そのものの甘味。そして、頭の部分から感じられる海老味噌の濃厚な旨味。

えびめしの香ばしさと、海老フライの旨味。

同じ海老を使いながら、それぞれ異なる方向から味覚を楽しませてくれます。そして、これらを口の中で綺麗に洗い流してくれたのが、ニルギリ茶。すっきりとした飲み口が、濃厚な食事の後に実に心地よい。

旅の最後に、また一つ美味しいものを引き当てることができました。大満足です。

この時点では。

お会計

食事を終え、余韻に浸りながらお会計へ。そこで、店員さんから告げられた一言。

「お支払いは現金かPayPayになります」

……。

…………。

現金、そんなに持っていない。

今回の旅行では、基本的にSuicaとデビットカードで支払いを済ませてきました。現金が必要になる場面は限られており、財布の中身をそれほど気にしていなかったのです。

ここで提示された選択肢。

現金かPayPay。

筆者が普段使っている決済手段が、見事に両方とも外れました。

……財布の中に、いくら残っていた?

とりあえず財布を開きます。千円札がある。よし。しかし、これだけでは足りません。

小銭入れを開きます。

100円。
200円。
300円。

頼む。あと少し。ここで小銭を数える手が止まりました。

支払いを済ませた結果、残金40円。

…………。

危なかった。本当に、危なかった。ここで「これからお金下ろしてきます」とかは相当に格好が悪い状況です。しかも、新幹線まで2時間を切っている状況です。

狂乱の貴公子、再び

ここで、ふと思い出したことがあります。この日の朝食です。朝に食べたうどんを、プロレス界のレジェンド、リック・フレアーになぞらえていたのです。

「狂乱の貴公子」の異名を持つその試合運びといえば、観客の感情を巧みに操り、絶体絶命の状況からでも生き残る老獪さ。そして、何よりも印象的なのが、カウント2.99でのキックアウトです。

レフェリーの手がマットを叩く。「スリー……!」と思った瞬間、肩が上がる。あるいは、レフェリーが3カウントを数え終わったというのに、よく見れば片足がしれっとロープにかかっていてロープブレイク。

  • 観客は騒然。
  • 対戦相手は抗議。
  • そして当の本人は、何食わぬ顔で生き残っている。

これぞ、リック・フレアー。

朝食のうどんを喩えるために狂乱の貴公子を持ち出したら、昼食でその試合運びを再現するとは誰が思いますか。

今回の旅における最大のピンチ。それは、雨でも怪我や体調不良でもなければ、旅程の変更でもありませんでした。昼食代が払えるかどうか。

しかも、その決着は残金40円という、まさしくカウント2.99の世界。筆者、この時の会計の記録に「カウント2.99のキックアウト」と項目名につけたほどです。

最高の伏線

そして、ここで思い出したのが、後楽園での支払いです。入場料をSuicaで支払っていたこと。もし、あのとき現金で支払っていたら?答えは明白です。

えびめしのお会計で、現金が足りなくなっていました。

何の気なしに選んだSuica決済。それが、数時間後の自分を救っていたのです。

  • 尾道から続く雨の彼岸花。
  • 岡山後楽園での散策。
  • 岡山名物のえびめし。

それぞれが旅の思い出として独立しているはずだったのに、最後の最後で思わぬ形につながりました。まさか、後楽園の入場料をSuicaで払ったことが、昼食代を支払えるかどうかの分岐点になっていたとは。

これもまた、今回のピボット旅行らしい展開です。

試合終了

こうして、無事に支払いを終えました。財布に残された現金は40円。レフェリーの3カウントは成立せず。ロープ際で、辛うじて生き残った格好です。

そして、お店を後にしてようやく、先ほど食べたえびめしの味が蘇ってきました。

  • カレーの風味をまとったご飯の香ばしさ。
  • プリプリとした海老の食感。
  • 有頭海老フライの香ばしさと、海老味噌の旨味。
  • それらをすっきりと流してくれたニルギリ茶。

今回のピボット旅行は、天候や交通事情に合わせて予定を変更し、その都度、別の楽しみを見つけてきた旅でした。

しかし、最終日の昼食に至っては、ピボットする余地すらありません。あるのは、財布の中身だけ。

そこで生き残れたのは、後楽園でのSuica決済という、本人すら意識していなかった伏線のおかげでした。

朝食でリック・フレアーを持ち出し、昼食でリック・フレアーの試合をする。

そして、財布には40円が残った。カウント2.99。狂乱の貴公子、岡山にて生還。

Woooo!