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Linuxカーネルの脆弱性 CVE-2026-98432 続報:nftablesによる暫定緩和策と永続化

概要

先日、Linuxカーネルの脆弱性「CVE-2026-98432」について、原因と暫定対策を記事にしました。

その後、2026年10月30日付で、Red HatおよびCIQからnftablesを利用した緩和策が公開されました。

今回の脆弱性は、IPv4 TCP接続の処理中に解放済みメモリへアクセスするUse-After-Free(UAF)に起因するものです。

攻撃者がIPv4オプションを含むTCPパケットを送信することで、問題のある処理経路に到達する可能性があります。

そこで、IPv4オプション付きTCPパケットをカーネルのTCP処理に到達する前に破棄するというのが、今回の緩和策です。

参考資料:

CIQの資料では、MPTCPを無効化した状態でも通常のTCP通信から脆弱な処理経路に到達できることが確認されています。そのため、MPTCPの無効化だけに頼らず、nftablesによる通信制御を追加することにしました。

今回は、実際に運用しているサーバに暫定ルールを追加し、systemdによる永続化の設定まで行った記録です。

環境

  • OS:Ubuntu 24.04 LTS
  • Webサーバ:Apache
  • ファイアウォール:UFW
  • IPアドレス制御:ipset
  • 不正アクセス対策:fail2ban
  • iptables:v1.8.10(nf_tables)
  • 作業日:2026年10月31日

筆者環境では、UFWとipsetを組み合わせたアクセス制御を行っています。

今回の作業前に、nftablesのルールセットを確認しました。

sudo nft list ruleset | wc -l

結果は、

6089

6,089行。

この時点で、今回の作業方針はほぼ決まりました。既存のファイアウォールには、できる限り手を加えないことです。

実際、iptablesのバージョンを確認すると、

sudo iptables -V
iptables v1.8.10 (nf_tables)

となっていました。また、nftablesのテーブル一覧は以下のとおりです。

sudo nft list tables
table ip6 filter
table ip filter
table ip nat
table ip6 nat
table ip raw
table inet f2b-table

UFWなどがiptables-nftを通じて管理しているテーブルに加え、fail2ban用の独立したテーブルも存在しています。

今回の緩和策は、これらとは別に専用テーブルを作成する方針としました。

フェイズゼロ:政治交渉

以前の記事でも触れましたが、システムの保守作業には技術的な準備だけでなく、作業時間の確保や関係者との調整が必要です。

今回も例外ではありません。

ただし、今回の作業では、もう一つ交渉相手がいました。

自分自身です。

既に稼働しているファイアウォールの設定を変更するのは、できれば避けたい作業です。

しかも、SSHで接続しているサーバのネットワーク制御を変更するとなれば、設定を間違えた瞬間に自分自身を締め出す可能性があります。

そこで、今回の作業では以下を徹底しました。

  • 既存のUFW・ipset・fail2banの設定は変更しない。
  • nftablesにCVE対策専用のテーブルを作成する。
  • 変更前のルールセットを保存する。
  • シリアルコンソールを確保する。
  • 問題が発生した場合は、専用テーブルだけを削除する。

特に重要なのが、シリアルコンソールです。

SSH接続を失った場合でも、ネットワーク経由ではない復旧手段を確保してから作業に入りました。

退路を確保してから前進する。

今回は、これが最も重要な準備でした。

さっくりとした手順

  1. 作業ディレクトリへ移動 cd /home/hoge/work/cve-2026-98432

任意のディレクトリを指定します。

  1. 既存ルールセットをバックアップ sudo nft -a list ruleset > nftables-before-cve-2026-98432.txt
  2. テーブル一覧をバックアップ sudo nft list tables > nftables-tables-before.txt
  3. 既存のCVE対策用テーブルを確認 sudo nft list table inet cve_2026_98432
  4. 暫定ルールの設定ファイルを作成 nano cve-2026-98432.nft
  5. 構文チェック sudo nft --check --file cve-2026-98432.nft
  6. 暫定ルールを適用 sudo nft --file cve-2026-98432.nft
  7. 適用結果を確認 sudo nft -a list table inet cve_2026_98432
  8. 永続化用の設定ファイルを作成 sudo nano /etc/nftables/cve-2026-98432.nft
  9. systemdユニットを作成 sudo nano /etc/systemd/system/cve-2026-98432-nft.service
  10. 永続化用設定の構文チェック sudo nft --check --file /etc/nftables/cve-2026-98432.nft
  11. systemdユニットの検証 sudo systemd-analyze verify /etc/systemd/system/cve-2026-98432-nft.service
  12. systemdの設定を再読み込み sudo systemctl daemon-reload
  13. 自動起動を有効化 sudo systemctl enable cve-2026-98432-nft.service
  14. 自動起動の登録状態を確認 systemctl is-enabled cve-2026-98432-nft.service
  15. 既存の防御機構を確認 sudo ufw statussudo ipset list -namesudo fail2ban-client status

作業詳細

1. 既存のルールセットをバックアップ

まずは、作業ディレクトリを用意しました。

今回の作業ディレクトリは以下です。任意のディレクトリを指定してください。

cd /home/hoge/work/cve-2026-98432

現在のルールセットを保存します。

sudo nft -a list ruleset > nftables-before-cve-2026-98432.txt

続いて、行数を確認しました。

wc -l nftables-before-cve-2026-98432.txt
6089 nftables-before-cve-2026-98432.txt

既存の6,089行を保存できています。

次に、テーブル一覧も保存します。

sudo nft list tables > nftables-tables-before.txt

ファイルの状態は以下でした。

nftables-before-cve-2026-98432.txt  239547 bytes
nftables-tables-before.txt              94 bytes

これで、変更前の状態を記録できました。なお、これらのファイルは復旧時の参照用です。

iptables-nftで管理されているテーブルも含まれるため、バックアップ全体を無条件に読み戻すことはしません。

2. nftablesの専用テーブルを作成

まず、同名のテーブルが存在しないことを確認します。

sudo nft list table inet cve_2026_98432

続いて、作業ディレクトリに設定ファイルを作成しました。

nano cve-2026-98432.nft

内容は以下です。

table inet cve_2026_98432 {
    chain prerouting {
        type filter hook prerouting priority -300; policy accept;
        ip hdrlength > 5 meta l4proto tcp counter drop
    }
}

それぞれの意味は以下のとおりです。

  • table inet cve_2026_98432:今回のCVE対策専用テーブル
  • hook prerouting:受信パケットの早い段階で評価
  • priority -300:raw優先度
  • ip hdrlength > 5:IPv4ヘッダーが通常の20バイトを超えるパケットを対象
  • meta l4proto tcp:TCP通信を対象
  • counter drop:該当パケットをカウントして破棄

ここで重要なのは、IPv4のIPオプションとTCPオプションは異なるという点です。

今回のルールは、TCPタイムスタンプなどの一般的なTCPオプションを一律に遮断するものではありません。

一方、IPv4オプションを使用する正当なTCP通信は遮断されるため、適用先の通信要件を考慮する必要があります。

3. 構文チェック

設定ファイルを保存したら、構文チェックを実施します。

sudo nft --check --file cve-2026-98432.nft

エラーは表示されませんでした。終了ステータスも確認します。

echo $?
0

構文チェック成功です。この段階では、まだ通信制御は変更されていません。

4. シリアルコンソールを確保

実際に適用する前に、vpsのシリアルコンソールへ接続しました。

今回の作業で最も避けたいのは、SSH接続を失ってサーバへアクセスできなくなることです。

現在のUFWでは、以下のポートを許可しています。

80/tcp
443/tcp
22/tcp

今回のnftablesルールはポート番号による判定ではないため、これらのポートにも条件が一致すれば適用されます。

そのため、SSHセッションを維持したまま作業し、必要になればシリアルコンソールから切り戻せるようにしました。

5. 暫定ルールを適用

準備ができたところで、設定を適用します。その前に:深く深呼吸を3回ぐらいしましょう。ここから先、タイポ、コマンド忘れ、全てが致命的になり得ます。

sudo nft --file cve-2026-98432.nft

エラーは表示されませんでした。続いて、適用結果を確認します。

sudo nft -a list table inet cve_2026_98432

結果は以下です。

table inet cve_2026_98432 { # handle 10
        chain prerouting { # handle 1
                type filter hook prerouting priority raw; policy accept;
                ip hdrlength > 5 meta l4proto tcp counter packets 0 bytes 0 drop # handle 2
        }
}

設定ファイルではpriority -300と指定しましたが、表示上はpriority rawとなっています。これはnftablesが数値を定義済みの優先度名で表示しているためです。

また、

counter packets 0 bytes 0

となっています。この時点では、遮断条件に一致したパケットはありませんでした。

6. Webサイトの動作確認

適用後、自サイトへアクセスし、記事の登録まで行いました。

HTTPSによるアクセス、ログイン状態の維持、記事の登録と保存が正常に行えています。

単純なHTTP応答だけでなく、普段利用しているWebアプリケーションの操作が継続できることを確認しました。

少なくとも、今回確認した範囲ではWebサイトの利用に支障は発生していません。

永続化

1. 永続化用の設定ファイルを作成

暫定ルールの動作を確認できたため、再起動後にも読み込めるようにします。ただし、既存のUFWやipsetを管理している仕組みには手を加えません。

今回は、CVE対策専用の設定ファイルとsystemdユニットを作成しました。

sudo mkdir -p /etc/nftables
sudo nano /etc/nftables/cve-2026-98432.nft

内容は以下です。

add table inet cve_2026_98432
delete table inet cve_2026_98432

table inet cve_2026_98432 {
    chain prerouting {
        type filter hook prerouting priority -300; policy accept;
        ip hdrlength > 5 meta l4proto tcp counter drop
    }
}

冒頭の、

add table inet cve_2026_98432
delete table inet cve_2026_98432

は、既存の専用テーブルが存在する場合でも、同じ名前のテーブルを作り直せるようにするためのものです。

削除対象はcve_2026_98432テーブルに限定しています。

UFWやfail2banのテーブルには触れません。

2. systemdユニットを作成

続いて、専用のsystemdユニットを作成します。

sudo nano /etc/systemd/system/cve-2026-98432-nft.service

内容は以下です。

[Unit]
Description=Temporary nftables mitigation for CVE-2026-98432
Wants=network-pre.target
Before=network-pre.target

[Service]
Type=oneshot
RemainAfterExit=yes
ExecStart=/usr/sbin/nft -f /etc/nftables/cve-2026-98432.nft
ExecStop=-/usr/sbin/nft delete table inet cve_2026_98432

[Install]
WantedBy=multi-user.target

このユニットでは、起動時に専用のnftables設定ファイルを読み込みます。停止時には、今回追加したテーブルだけを削除します。

RemainAfterExit=yesを指定しているため、ルールの読み込みが完了した後もsystemd上ではサービスを有効な状態として扱います。

3. 設定ファイルの構文チェック

まず、nftables設定ファイルを検証します。

sudo nft --check --file /etc/nftables/cve-2026-98432.nft

終了ステータスを確認しました。

echo $?
0

正常終了です。

続いて、systemdユニットも検証します。

sudo systemd-analyze verify /etc/systemd/system/cve-2026-98432-nft.service

4. systemdに登録

ユニット定義を再読み込みします。この作業の前に、もう4回ほど深呼吸をして、飲み物を何か飲みましょう。お茶菓子などがあれば更に最高です。

システムをいじる作業は全て自分の指先に全責任が伴います。

sudo systemctl daemon-reload

続いて、自動起動を有効化します。

sudo systemctl enable cve-2026-98432-nft.service

ここでは--nowを付けませんでした。

既に手動で適用したルールが動作しているため、現時点で専用テーブルを作り直す必要がないからです。

最後に、自動起動の登録状態を確認します。

systemctl is-enabled cve-2026-98432-nft.service

結果は、

enabled

となりました。

これで、systemdによる自動起動の登録まで完了です。

なお、再起動後に実際にルールが復元されるかは、まだ確認していません。

既存の防御機構を確認

今回の作業で最も気になっていたのは、既存のUFW・ipset・fail2banへの影響です。

設定ファイルを作成し、自動起動を登録した後、改めて状態を確認しました。

1. nftables

sudo nft list table inet cve_2026_98432
table inet cve_2026_98432 {
        chain prerouting {
                type filter hook prerouting priority raw; policy accept;
                ip hdrlength > 5 meta l4proto tcp counter packets 0 bytes 0 drop
        }
}

専用テーブルは維持されています。

2. UFW

sudo ufw status
状態: アクティブ

To                         Action      From
--                         ------      ----
80/tcp                     ALLOW       Anywhere
443/tcp                    ALLOW       Anywhere
22/tcp                  ALLOW       Anywhere

UFWはアクティブのままです。

既存の許可ポートにも変更はありません。

3. ipset

sudo ipset list -name
ufw-blocklist

既存のipsetが存在していることを確認できました。

4. fail2ban

sudo fail2ban-client status
Status
|- Number of jail:      2
`- Jail list:   sshd, ufw

fail2banも、既存の2つのjailを維持しています。

これらの確認から、少なくともサービスの状態と設定の一覧については、作業前の構成が維持されていることを確認できました。

切り戻し

今回の暫定ルールに問題が発生した場合は、専用テーブルを削除します。

一時的にルールを撤去する場合

sudo nft delete table inet cve_2026_98432

この操作で、今回追加したテーブルとチェーンを削除できます。

ただし、systemdの自動起動設定は残るため、次回起動時には再び読み込まれます。

永続化設定も撤去する場合

まず、自動起動を無効化します。

sudo systemctl disable cve-2026-98432-nft.service

続いて、専用テーブルを削除します。

sudo nft delete table inet cve_2026_98432

systemdユニットを削除します。

sudo rm /etc/systemd/system/cve-2026-98432-nft.service

nftables設定ファイルも削除します。

sudo rm /etc/nftables/cve-2026-98432.nft

最後に、systemdの設定を再読み込みします。

sudo systemctl daemon-reload

今回追加した設定だけを撤去するため、既存のUFW・ipset・fail2banの設定はそのまま維持できます。

今後の確認事項

今回の作業では、以下まで完了しています。

  • 既存ルールセットのバックアップ
  • シリアルコンソールによる復旧経路の確保
  • nftables専用テーブルの追加
  • 設定ファイルの構文チェック
  • Webサイトの動作確認
  • systemdユニットの作成
  • 自動起動の有効化
  • UFW・ipset・fail2banの状態確認

残っているのは、再起動後の動作確認です。

次回の再起動後には、以下を確認します。

systemctl is-active cve-2026-98432-nft.service
sudo nft list table inet cve_2026_98432

activeと表示されるだけでなく、実際に専用テーブルが存在していることを確認します。

また、今回のルールはIPv4オプション付きTCPパケットを遮断する暫定措置です。

CIQが公開した検証結果はRocky Linux系の環境を対象としており、筆者環境のUbuntu 24.04 LTSで同等の攻撃パケットを用いた遮断試験までは実施していません。

そのため、今回確認できたのはルールの登録と通常通信の継続までです。

修正済みカーネルが提供された段階で更新を行い、不要になった暫定ルールを撤去する予定です。

おわりに

今回の作業で、最も神経を使ったのはnftablesの設定そのものではありません。

既に稼働している防御機構を壊さずに、新しい防御を追加することでした。

筆者環境では、UFW・ipset・fail2banを組み合わせてアクセス制御を行っています。その結果、nftablesのルールセットは6,089行に達していました。

そこへ緊急の脆弱性対策を追加するのですから、作業を始める前から気が重くなるのも無理はありません。

そこで、今回は既存のルールセットを編集せず、専用テーブルを追加する方式を採用しました。

さらに、シリアルコンソールを確保し、問題が発生した場合には今回追加したテーブルだけを削除できるようにしています。

結果として、既存のUFW・ipset・fail2banの設定を変更することなく、暫定緩和策の導入と永続化の登録まで進められました。

今回の作業で改めて感じたのは、システムの保守とは、何かを変更する技術だけでなく、変更しなくてよいものを見極める判断でもあるということです。

脆弱性を塞ごうとして、既存の防御機構を壊してしまっては意味がありません。

そして、その判断を支えるのがバックアップであり、切り戻し手順であり、シリアルコンソールという最後の退路です。

作業を終えた後の感想を一言で表すなら、

「心臓に悪い作業だった」

でしょうか。

とはいえ、これで修正済みカーネルが提供されるまでの間、攻撃経路を減らすための対策を一つ追加できました。

今後もカーネルの修正状況を確認しながら、必要な対応を続けていきます。

Linuxカーネルの脆弱性 CVE-2026-98432:原因と暫定対策(nftablesの暫定緩和策へのリンクあり)

2026/10/31 9:44 追記

以下、本件の続いての対応策を記しています

概要

2026年10月15日、LinuxカーネルのIPv4 TCP処理に関する脆弱性 CVE-2026-98432 が公表されました。

CVSS 3.1の評価は9.8(Critical)。認証を必要とせず、ネットワーク経由で攻撃が成立する可能性がある脆弱性です。

今回の問題は、TCP接続の確立処理において、使用中のメモリ領域を適切なタイミングで解放できていなかったことに起因します。

筆者のように公開サーバーを運用している方は、カーネルの更新が必要になるため、対応状況を確認しておきたいところです。

今回は、脆弱性の原因と影響を整理したうえで、Ubuntuにおける修正カーネルの適用方法と、パッチが提供されるまでの暫定的な対応についてまとめます。

筆者環境

  • OS:Ubuntu 24.04 LTS
  • Kernel:Linux(Generic)
  • 対象:IPv4 TCP処理
  • CVE:CVE-2026-98432
  • 公開サーバー:Apache等を運用

1. 脆弱性の概要

今回の脆弱性は、LinuxカーネルのIPv4ネットワーク処理に存在する Use-After-Free(解放済みメモリへのアクセス) です。

問題となったのは、TCP接続の確立処理で使用するソケットオプションの解放タイミングです。

具体的には、tcp_v4_syn_recv_sock()による子ソケットの生成と、再送されたSYNパケットに対するSYN-ACKの生成が並行して実行された場合、同じメモリ領域を参照しているにもかかわらず、先にメモリが解放されてしまう可能性があります。

本来、複数のCPUコアから参照される可能性があるメモリについては、RCU(Read-Copy-Update)の猶予期間を経てから解放する必要があります。

ところが、修正前の処理では通常のkfree()によって即座に解放していました。

修正では、この部分をkfree_rcu()に変更し、参照中の処理が完了するまでメモリの解放を遅らせています。

つまり、今回の問題はメモリを解放する処理そのものではなく、他の処理がまだ参照している可能性を考慮せずに解放していたことにあります。

1.1. 影響とリスク

悪意のある細工を施したTCPパケットによって、この競合状態を発生させられた場合、主に次のような影響が考えられます。

  • サービス停止(DoS) 解放済みのメモリを参照した結果、カーネルパニックが発生し、OS全体が停止する可能性があります。
  • メモリ破壊 解放されたメモリ領域が別の用途に再利用された場合、予期しないメモリアクセスが発生する可能性があります。 メモリ破壊を利用した権限昇格やコード実行もリスクとして考えられます。

今回の問題はアプリケーションのログイン処理などを経由するものではなく、OSのTCP/IP処理層で発生します。

そのため、Webサーバーに認証機能を設けたり、SSHのログイン制限を強化したりするだけでは対処できません。

1.2. CVSS 9.8という評価について

今回の脆弱性はCVSS 3.1で9.8と評価されていますが、ディストリビューションによって評価には差があります。

例えばRed Hatでは、攻撃に必要な競合状態を成立させる難しさを考慮し、CVSS 3.1で5.9と評価しています。

とはいえ、攻撃が成立した場合にOS全体が停止する可能性があること、ネットワーク経由で認証なしに攻撃できる可能性があることは変わりません。

公開サーバーを運用する立場としては、修正パッケージの提供状況を確認し、対応を進めておきたいところです。

2. フェイズゼロ:政治交渉

さて、技術的な対策に入る前に、もう一つ済ませておくべきことがあります。

政治交渉です。

個人で運用しているサーバーであれば、作業時間も再起動のタイミングも自分の裁量で決められます。

しかし、組織で運用しているサーバーとなれば話は変わります。

  • カーネルの脆弱性が公表された
  • 修正済みカーネルへの更新が必要である
  • 更新を反映するためにOSの再起動を伴う
  • その間、サービスが一時的に停止する
  • ついては、○時頃から○分程度の作業時間をいただきたい

といった、利用者への周知という名の政治交渉が必要になります。

このあたりは運用者の政治的な立ち位置、つまり、担当者や担当部門がどこまで強権を振るえるかによっても言い方や手段が変わってきます。

ただし、今回に限っては少々強気に出てもよいのではないかと筆者は考えています。

昨今、サイバー攻撃によるサービス停止や情報漏洩がこれだけ問題になっている状況です。

その中で、CVSS 9.8という重大な脆弱性が公表され、しかもネットワーク経由で攻撃される可能性がある。

ここまで条件が揃っているのであれば、

「業務に影響が出るので作業を控えてほしい」という要求に対して、「脆弱性を放置することによる業務への影響をどう評価するのか」と切り返すだけの材料は十分にあります。

予定した時間にサービスを停止することと、攻撃によって予期しない時間にサービスが停止すること。

どちらが業務に与える影響を制御しやすいかは、考えるまでもないでしょう。

そのため、今回は「作業を実施してよいでしょうか」というお願いよりも、

「重大な脆弱性への対応として、以下の時間帯に緊急メンテナンスを実施します」

という、実施を前提とした周知を提案したいところです。

実際にどこまで踏み込めるかは、組織の権限や運用ルール次第です。緊急変更の手続きが定められているのであれば、それに従って進めます。

ただ、こういうときのために緊急変更という仕組みが存在するのですから、使えるものは使っていきましょう。

※ 検証環境を用意できる程度には時間と予算と環境に余裕がある方は、その環境にいることを感謝しつつ、検証を重ねていきましょう。

また、再起動を伴う作業ですから、実施前には復旧手順や切り戻し方法も確認しておきます。

  • 旧カーネルから起動できるか
  • VPSの管理コンソールから操作できるか
  • バックアップやスナップショットは取得できているか
  • 再起動後にサービスが正常稼働しなかった場合、どう復旧するか

このあたりを押さえたうえで作業に入ります。

以下の手順は、

  • 個人運用なので、そもそも政治交渉が不要
  • 組織内でフェイズゼロをクリアした

方向けのものです。

技術的には数分で終わる作業でも、その数分を確保するために何日もかかる。

サーバー運用とは、往々にしてそういうものです。

ですが、今回のような脆弱性対応では、その何日間をどこまで短縮できるかも、運用者の仕事だと考えています。

3. さっくりとした手順

以下の流れで対応します。

3.1. 事前確認

  1. 現在のカーネルを確認します。 uname -r
  2. MPTCPの設定を確認します。 sysctl net.mptcp.enabled
  3. MPTCPの使用状況を確認します。 sudo ss -Mlnp
  4. TCPリクエスト移行機能の設定を確認します。 sysctl net.ipv4.tcp_migrate_req

3.2. 暫定対応

  1. MPTCPを無効化します。 sudo sysctl -w net.mptcp.enabled=0
  2. 設定ファイルを作成します。 echo "net.mptcp.enabled = 0" | sudo tee /etc/sysctl.d/99-disable-mptcp.conf
  3. 設定を反映します。 sudo sysctl --system
  4. 設定を確認します。 sysctl net.mptcp.enabled

3.3. 修正カーネルの適用

  1. パッケージ情報を更新します。 sudo apt update
  2. カーネルパッケージの更新候補を確認します。 apt-cache policy linux-generic linux-image-generic
  3. 修正済みパッケージが提供されている場合、更新します。 sudo apt install --only-upgrade linux-generic linux-image-generic
  4. OSを再起動します。 sudo reboot
  5. 稼働カーネルを確認します。 uname -r

以上です。

なお、手順5~8はMPTCPを使用していない環境での暫定対応です。

MPTCPの無効化だけでは、今回の脆弱性への対処は完了しません。

また、手順11以降は修正済みカーネルが提供されてから実施します。

4. 詳細手順

4.1. 現在のカーネルを確認

まずは、稼働中のカーネルを確認します。

uname -r

ここで表示されたバージョンを控えておきます。

続いて、インストール済みのカーネルパッケージを確認します。

dpkg -l | grep linux-image

現在使用しているカーネルと、インストール済みのカーネルを把握しておきます。

特に、更新後に問題が発生した場合、旧カーネルで起動できる状態かどうかは重要です。

4.2. MPTCPの使用状況を確認

MPTCP(Multipath TCP)は、複数のネットワーク経路を利用して1つのTCP通信を構成するための拡張プロトコルです。

例えば、Wi-Fiとモバイル回線を併用し、通信経路を切り替えながら接続を維持するような用途で使用されます。

Linuxでは、次のカーネルパラメータでMPTCPの有効・無効を制御できます。

net.mptcp.enabled

現在の設定を確認します。

sysctl net.mptcp.enabled
  • 1:有効
  • 0:無効

続いて、MPTCPを使用している待ち受けソケットを確認します。

sudo ss -Mlnp

MPTCPを使用しているサービスが表示された場合は、そのサービスへの影響を確認します。

特に、Go 1.24以降では、Linux上の待ち受けソケットでMPTCPが利用される場合があります。

意図的にMPTCPを設定していなくても、アプリケーション側の実装によって利用されている可能性があるため、確認しておきます。

4.3. TCPリクエスト移行機能を確認

今回の脆弱性では、TCPリクエストソケットの移行処理にも類似した問題があります。

この機能に関係するカーネルパラメータが、以下のものです。

net.ipv4.tcp_migrate_req

設定を確認します。

sysctl net.ipv4.tcp_migrate_req

通常は0です。

1になっている場合は、TCPリクエスト移行機能を使用している可能性があります。

この機能を意図的に有効化している場合は、使用目的を確認したうえで対応を検討します。

5. 暫定対応:MPTCPの無効化

修正済みカーネルが提供されるまでの間、攻撃対象となる機能を減らす方法として、MPTCPの無効化があります。ただし、ここは少し注意が必要です。

今回の脆弱性の本体はIPv4 TCPのソケット処理にあります。MPTCPを無効化することで、MPTCPを利用した攻撃経路を制限することはできますが、通常のTCP処理に存在する脆弱性そのものが解消されるわけではありません。

また、Red Hatのセキュリティ情報では、この脆弱性に対して、同社の基準を満たす緩和策は提供されていないとされています。

そのため、MPTCPの無効化は、修正パッチが届くまでの攻撃対象領域を減らす措置として扱います。

5.1. MPTCPを無効化

MPTCPを使用していないことを確認したうえで、以下のコマンドを実行します。

sudo sysctl -w net.mptcp.enabled=0

この設定は即時反映されます。MPTCPを使用しているサービスが存在する場合は、サービス側の再起動なども含めて確認が必要です。

5.2. 再起動後も設定を維持

sysctl -wによる設定変更は、OSを再起動すると元に戻ります。

再起動後も無効化した状態を維持する場合は、設定ファイルを作成します。

echo "net.mptcp.enabled = 0" | sudo tee /etc/sysctl.d/99-disable-mptcp.conf

設定を反映します。

sudo sysctl --system

最後に設定値を確認します。

sysctl net.mptcp.enabled

以下のように表示されれば設定完了です。

net.mptcp.enabled = 0

5.3. 設定変更による影響

MPTCPを無効化した場合、影響を受けるのはMPTCPを利用する通信です。

一般的なWebサーバーやSSH、データベースなどで使用される通常のTCP通信は、そのまま利用できます。

対象影響
Apache / Nginx通常のTCP通信に影響なし
SSH通常のTCP通信に影響なし
MySQL / PostgreSQL通常のTCP通信に影響なし
MPTCP対応アプリケーションMPTCPによる通信が利用できなくなる
マルチホーム環境MPTCPを利用した経路制御に影響

一般的なVPSやWebサーバーでは、MPTCPを意図的に利用しているケースは多くありません。

筆者のようにApacheを中心としてWebサービスを公開している環境であれば、通常のTCP通信に対する影響はありません。

ただし、Go製のアプリケーションなどがMPTCPを利用している可能性もあるため、使用状況を確認したうえで設定を変更します。

6. 根本対策:修正済みカーネルへの更新

今回の脆弱性はカーネル内部の処理に起因するため、根本的な対策は修正済みカーネルへの更新です。

Ubuntuでは、上流のLinuxカーネルで修正が公開されていても、Ubuntuの公式パッケージに反映されるまでには時間差があります。

また、Ubuntuでは修正内容が既存のカーネル系列にバックポートされることがあります。

そのため、単純にuname -rの数字だけで修正済みかどうかを判断するのではなく、Ubuntu Security Trackerで対象パッケージの修正状況を確認します。

6.1. パッケージ情報を更新

sudo apt update

続いて、カーネルパッケージの候補を確認します。

apt-cache policy linux-generic linux-image-generic

修正済みパッケージが提供されていることを確認してから、更新作業に進みます。

6.2. カーネルパッケージを更新

Ubuntu 24.04 LTSの標準的なGenericカーネルを使用している場合は、以下のコマンドで更新します。

sudo apt install --only-upgrade linux-generic linux-image-generic

更新時には、インストール対象となるパッケージとバージョンを確認します。

なお、HWEカーネルやクラウド向けカーネルなどを使用している場合は、対象となるパッケージが異なります。

その場合は、現在使用しているカーネル系列に対応したパッケージを更新します。

6.3. OSを再起動

カーネルパッケージの更新が完了したら、OSを再起動します。

sudo reboot

この操作によって、サーバー上で稼働しているサービスは一時的に停止します。

事前に確保した作業時間内で実施します。

6.4. 更新後の確認

再起動後、稼働カーネルを確認します。

uname -r

続いて、インストール済みのカーネルパッケージを確認します。

dpkg -l | grep linux-image

Ubuntu Security Trackerで確認した修正済みパッケージが適用されていることを確認します。また、ApacheやSSHなど、サーバー上で稼働しているサービスについても動作確認を行います。

7. 切り戻し

設定変更後に問題が発生した場合に備え、切り戻し方法もまとめておきます。

7.1. MPTCPの設定を元に戻す

まずは、設定ファイルを削除します。

sudo rm /etc/sysctl.d/99-disable-mptcp.conf

続いて、MPTCPを有効化します。

sudo sysctl -w net.mptcp.enabled=1

設定を確認します。

sysctl net.mptcp.enabled

以下のように表示されれば設定完了です。

net.mptcp.enabled = 1

なお、この手順は変更前の設定が1だった場合のものです。変更前から0だった場合は、その状態を維持します。

また、既存のMPTCPソケットについては、必要に応じてサービスの再起動を行います。

7.2. カーネル更新後に問題が発生した場合

カーネル更新後にOSが正常起動しない場合は、GRUBから旧カーネルを選択して起動します。

VPSの場合は、管理コンソールなどから復旧操作を行います。そのため、作業前には以下を確認しておきます。

  • 旧カーネルが残っていること
  • 管理コンソールから操作できること
  • 必要なバックアップが取得されていること

特に、SSHでしか接続できない環境では、再起動後にネットワークが利用できなくなると復旧が難しくなります。

このあたりは、フェイズゼロで確認しておくべき項目です。

おわりに

今回のCVE-2026-98432は、LinuxカーネルのIPv4 TCP処理に存在するUse-After-Freeの脆弱性です。

対応としては、

  1. 現在のカーネルと修正パッケージの提供状況を確認する
  2. MPTCPを使用していなければ、暫定的な無効化を検討する
  3. 修正済みカーネルが提供され次第、更新と再起動を実施する

という流れになります。

そして、今回改めて意識したのは、技術的な対応そのものよりも、その作業時間をどう確保するかという点です。カーネルの更新は、コマンドだけを見れば難しい作業ではありません。

しかし、組織で運用しているサーバーの場合、OSの再起動というだけで相応の調整が必要になります。

そこで「業務に影響があるから」という理由だけで更新を先送りするのであれば、脆弱性を放置することで発生するリスクも、同じように評価する必要があります。

未来を完全に予測することはできなくても、未来に向けて判断できる状態を維持することはできます。

そのためにも、今回のような脆弱性への対応では、技術的な対策と同じぐらい、迅速に判断して実行できる環境を整えておきたいところです。

Ubuntu 26.04にMySQLを導入。

概要

Webアプリのお供であるDBを入れます。

環境

  • Ubuntu 26.04

※ローカル運用で実施。いわゆるLAMP環境のため、他のサーバがDBを見に行くことはないという想定です。

さっくりとした手順

  1. パッケージのアップデートを行います。
  2. MySQLをインストールします。
  3. MySQLのrootパスワードを設定します。
  4. mysql_secure_installationにより安全性を高めます。

パッケージのアップデート

sudo aptitude update

筆者の好みでaptitudeを用いています。必要に応じてaptを使ってください。

MySQLインストール

  • パッケージでインストール
sudo aptitude install mysql-server
  • インストール確認
systemctl status mysql

active(running)を確認します。

MySQL設定変更について

MySQL 8.4以降では、長年使われてきた古い認証方式(mysql_native_password)がデフォルトで無効化され、よりセキュアな caching_sha2_password が標準となっています。そのため、設定ファイル(mysqld.cnf)を書き換えて旧プラグインを強制する手順は不要となり、標準の認証方式のまま初期設定を進めます。

また、近年のバージョンではインストール直後の初期セキュリティが強化されていますが、mysql_secure_installation は以下の重要な役割を持つため実行します。

  • パスワード検証コンポーネント(VALIDATE PASSWORD)の導入
  • 匿名ユーザーアカウントを削除
  • リモートからのrootユーザーのログインを無効化
  • testデータベースを削除し、testデータベースへのアクセス権限を持つユーザーを削除

mysql rootパスワード設定

sudo mysql

初期状態ではローカルソケット認証(auth_socket)のため、sudo経由でパスワードなしでログインできます。

ALTER USER 'root'@'localhost' IDENTIFIED WITH caching_sha2_password BY 'password';

''のpasswordは任意の、強固なものを入力ください。

標準推奨の caching_sha2_password を用いて強固なパスワードを設定します。

flush privileges;
exit

mysql_secure_installation

sudo mysql_secure_installation

質問事項

Enter password for user root: 
# 上記で設定したパスワードを入力します
​
VALIDATE PASSWORD COMPONENT can be used to test passwords
and improve security. It checks the strength of password
and allows the users to set only those passwords which are
secure enough. Would you like to setup VALIDATE PASSWORD component?
​
Press y|Y for Yes, any other key for No:
# パスワード強度チェックを有効にするためYを入力してEnter
​
There are three levels of password validation policy:
​
LOW   Length >= 8
MEDIUM Length >= 8, numeric, mixed case, and special characters
STRONG Length >= 8, numeric, mixed case, special characters and dictionary file
​
Please enter 0 = LOW, 1 = MEDIUM and 2 = STRONG:
# ポリシーに合わせて0/1/2を入力(ローカル開発環境なら0または1を推奨)
​
Estimated strength of the password: 50
Change the password for root ? ((Press y|Y for Yes, any other key for No) :
# 既に直前の手順でパスワードを設定済みのため、ここではnを選択します。
​
By default, a MySQL installation has an anonymous user,
allowing anyone to log into MySQL without having to have
a user account created for them. This is intended only for
testing, and to make the installation go a bit smoother.
You should remove them before moving into a production
environment.
​
Remove anonymous users? (Press y|Y for Yes, any other key for No) :
# anonymousユーザーを削除するためY
​
Normally, root should only be allowed to connect from
'localhost'. This ensures that someone cannot guess at
the root password from the network.
​
Disallow root login remotely? (Press y|Y for Yes, any other key for No) :
# rootユーザのリモートログインを禁止するためY
​
Remove test database and access to it? (Press y|Y for Yes, any other key for No) :
# テストDBを削除するためY
​
Reload privilege tables now? (Press y|Y for Yes, any other key for No) :
# 設定を反映するためY

以上でMySQLの初期設定は完了です。

BOSGAME E5 初期セットアップ記録 ――Ubuntu 26.04 LTS、four-mations出発準備

はじめに

シェイクスピアの悲劇を経て購入した、自宅サーバ用の小型PC、BOSGAME E5。

手元に届いた以上、いつまでも箱の中に置いておくわけにはいきません。

今回の目的地は、自室のローカルサーバ環境です。これまでLet's note CF-XZで運用していたNextcloudとAdGuard Homeを、より余裕のある環境へ移す。そのための第一歩として、まずはOSを入れ替え、SSHで管理できるところまで整えます。

導入するOSはUbuntu 26.04 LTS Desktop。

ホスト名は four-mations としました。

ここから先の作業は、まだ本番サービスの移行ではありません。まずは土台を作り、ネットワークを整え、手元の自宅NWから遠隔操作できる状態にします。

環境

項目設定内容
対象機器BOSGAME E5
CPUAMD Ryzen 3 5300U
メモリ16GB DDR4
ストレージ512GB NVMe SSD
導入OSUbuntu 26.04 LTS Desktop
ホスト名four-mations
有線インターフェースenp2s0
固定IPアドレス192.168.11.21/24
デフォルトゲートウェイ192.168.11.1
DNSサーバー192.168.11.1

さっくりとした手順

  1. Ubuntu 26.04 LTS Desktopをクリーンインストールします。
  2. システムパッケージを最新化します。
  3. OpenSSH Serverを導入し、リモート接続を確認します。
  4. 有線LANのIPアドレスを固定化します。
  5. IPアドレス、ルーティング、外部ネットワークへの疎通を検証します。

1. Windows 11 ProからUbuntuへ

1.1 ブートメディアから起動します

購入時のBOSGAME E5にはWindows 11 Proが導入されていました。

しかし、今回の用途は自室のローカルサーバです。Windows環境をそのまま使うのではなく、Ubuntuをクリーンインストールします。

Ubuntu 26.04 LTS DesktopのインストーラUSBを用意し、本体に接続します。

電源投入時に DEL を押してブートメニューを開き、USBメモリから起動します。キーは機器のファームウェア設定によって異なる場合があります。

1.2 既存のストレージを初期化します

インストーラの画面に従ってインストールを進め、インストールタイプでは「ディスクを削除してUbuntuをインストール」を選択します。

インストール先は、内蔵NVMe SSDの nvme0n1 です。

注意:この操作では既存のWindows環境と、対象ディスク上のデータが消去されます。 必要なデータが残っていないことを確認してから実行します。

1.3 ホスト名を設定します

初期アカウントの設定では、コンピュータ名を次のように指定しました。(本ブログのアイキャッチの顔になっている4パターン、5人のお姉さんたちのユニット名です)

four-mations

ユーザー名とパスワードを設定し、インストール完了後に再起動します。こうして、新しい自室サーバの土台ができました。

2. システムを最新化します

2.0 aptitudeを入れます。

これは完全に筆者の好みの問題。

sudo apt install aptitude

2.1 パッケージリストを更新します

初期起動後、ターミナルを開きます。

sudo aptitude update

2.2 インストール済みパッケージを更新します

sudo aptitude upgrade -y

OSを入れたら、まずはシステムを最新の状態に整えます。この先、SSHやネットワークの設定を行うにしても、最初に基本部分を整えておくのが順序というものです。

3. SSHで遠隔操作できるようにします

3.1 OpenSSH Serverを導入します

自室サーバとして運用する以上、毎回ディスプレイとキーボードを接続して操作するのは避けたいところです。

そこで、OpenSSH Serverを導入します。

sudo apt install -y openssh-server

3.2 SSHサービスを有効化します

sudo systemctl enable --now ssh

これで、システム起動時の自動起動と、現在のサービス起動を設定できます。

3.3 サービスの稼働状態を確認します

systemctl status ssh --no-pager

出力に Active: active (running) と表示されていれば、SSHサービスは稼働しています。

3.4 現在のIPアドレスを確認します

ip -br a

有線インターフェース enp2s0 に割り当てられているIPアドレスを確認します。

この段階ではDHCPによる自動割り当てです。実際に割り当てられたアドレスを確認し、クライアント端末から接続できる状態にします。

3.5 ローカルネットワークからSSH接続します

手元のPCなど、同じLANに接続したクライアント端末から実行します。

ssh <ユーザー名>@<現在のIPアドレス>

Windowsの場合はお好みのターミナルソフトを使ってください。

初回接続時にはホスト鍵の確認が表示される場合があります。接続先が正しいことを確認してから受け入れます。

ログインできれば、ひとまず本体にディスプレイやキーボードをつながなくても操作できるようになりました。

ここから先は、遠隔操作を基本に進められます。

4. 有線LANのIPアドレスを固定化します

4.1 固定IPを設定する前に

多くの企業や組織では、固定IPの競合や管理問題から、最初から固定IPを導入するパターンでしょうが、筆者は違います。「DHCPがリースしたIPは他のNW機器とIPが被りようがない」です。

なので、省力化を果たします。(省力化とは)ただし、ここは作業上の注意点があります。

SSH接続中にネットワーク設定を変更すると、接続が切れる可能性があります。 固定IPへの切り替え前に、現在の接続情報を控え、可能なら本体のローカルコンソールから復旧できる状態を確保しておきます。

4.2 アクティブな接続名を取得します

Ubuntu Desktopでは、NetworkManagerを利用してネットワーク接続を管理できます。

まず、有線インターフェース enp2s0 に対応するアクティブな接続名を取得します。

CON_NAME=$(nmcli -t -f DEVICE,NAME connection show --active | awk -F: '$1=="enp2s0"{print $2}')

取得した値を確認します。

echo "$CON_NAME"

Wired connection 1 や 有線接続 1 など、実際の接続名が表示されることを確認します。

何も表示されない場合は、設定を変更せず、インターフェースと接続状態を確認します。

4.3 固定IPアドレスを設定します

まず、IPアドレスを指定します。

sudo nmcli connection modify "$CON_NAME" ipv4.addresses 192.168.11.21/24

デフォルトゲートウェイを指定します。

sudo nmcli connection modify "$CON_NAME" ipv4.gateway 192.168.11.1

DNSサーバーを指定します。

sudo nmcli connection modify "$CON_NAME" ipv4.dns 192.168.11.1

IPアドレスの取得方式をDHCPから手動設定へ変更します。

sudo nmcli connection modify "$CON_NAME" ipv4.method manual

4.4 設定を反映します

接続設定を再適用します。

sudo nmcli connection up "$CON_NAME"

正常に反映されれば、Connection successfully activated などのメッセージが表示されます。

接続が切れた場合は、固定IPアドレスで再接続します。

ssh <ユーザー名>@192.168.11.21

接続できない場合は、本体のローカルコンソールからネットワーク設定を確認します。DHCPへ戻す場合は、対象の接続名を確認したうえで次の設定を適用します。

sudo nmcli connection modify "$CON_NAME" ipv4.method auto ipv4.addresses "" ipv4.gateway "" ipv4.dns ""
sudo nmcli connection up "$CON_NAME"

なお、これは対象接続のIPv4設定をDHCPへ戻す操作です。実行前に接続名が正しいことを確認します。

5. ネットワーク設定を検証します

5.1 IPアドレスとインターフェース状態を確認します

ip -br a

enp2s0 が UP となり、192.168.11.21/24 が割り当てられていることを確認します。

5.2 ルーティングテーブルを確認します

ip route

出力例は次のとおりです。

default via 192.168.11.1 dev enp2s0 proto static metric 100
192.168.11.0/24 dev enp2s0 proto kernel scope link src 192.168.11.21 metric 100

デフォルトルートが 192.168.11.1 を向き、送信元アドレスとして 192.168.11.21 が使われていることを確認します。

5.3 IPアドレスを指定して疎通を確認します

ping -c 3 1.1.1.1

応答が返れば、少なくとも指定した外部IPアドレスへの通信ができています。

ネットワーク環境によってはICMPが制限される場合もあるため、応答がない場合は、この結果だけでネットワーク全体の障害と判断しないようにします。

5.4 DNSによる名前解決を確認します

getent hosts google.com

IPアドレスが返れば、名前解決ができています。

続けて、必要に応じて次のコマンドでも確認します。

ping -c 3 google.com

こちらは名前解決に加え、相手からICMP応答が返ることも確認するものです。名前解決が成功しても、ICMPが制限されていれば応答が返らない場合があります。

おわりに

これで、BOSGAME E5の初期セットアップはひとまず完了です。

Ubuntu 26.04 LTS Desktopを導入し、ホスト名を four-mations に設定。SSHで遠隔操作できるようにし、有線LANのIPアドレスを固定化しました。

まだNextcloudもAdGuard Homeも移行していません。今回整えたのは、あくまでそのための土台です。

しかし、これで自室の新しいサーバを構築する準備が整いました。

次は、既存環境の設定やデータを確認しながら、サービスの移行と動作検証を進めていきます。

PHP「php2shell」脆弱性への恒久的対応:PHP8.3-FPMを更新した際のondrej/phpの一時的退避とロールバック

前項で書いた

「php2shell」(CVE-2026-109618、CVE-2026-109619)

への恒久的対応として、PPA提供の php8.3(バージョン 8.3.35)から、Ubuntu公式の修正版(8.3.6-0ubuntu0.24.04.13)へとロールバック・パッチ適用したときの作業メモです。

概要

Ubuntu 24.04 LTS(noble)環境において、php2shell 脆弱性への対応として Ubuntu 公式セキュリティリポジトリの PHP 修正版を適用しようとしたところ、サードパーティリポジトリのパッケージが優先され、通常のパッケージ更新では修正版へ切り替わらない事象が発生しました。

原因調査の結果、ppa:ondrej/php の PHP パッケージ(8.3.35)がインストール済みかつ更新候補として選択されていることを確認しました。APTの仕様上、バージョン番号が大きいPPA版が優先されていたため、PPAをパージして Ubuntu 公式パッケージへロールバックすることでパッチ適用を完了させました。

本記事では、発生した問題、原因調査、ロールバック手順、パッチ適用確認および復旧手順を記録します。

環境

  • OS:Ubuntu 24.04 LTS(noble)
  • 対象パッケージ:PHP 8.3
  • サードパーティリポジトリ:ppa:ondrej/php
  • ロールバック先:Ubuntu 公式セキュリティリポジトリ(noble-security)
  • PHP-FPM:php8.3-fpm
  • Webサーバー:Apache
  • 発生日時:2026年10月22日 02:54 JST
  • 関連事象:PHPパッケージ更新時にPPA側で503エラーが発生。PHP更新後にPHP-FPMおよびWebサイトの動作を検証。

さっくりとした手順

  1. PHPの脆弱性対応パッケージが更新されない事象を確認します。
  2. 一時的に Ubuntu 公式セキュリティリポジトリを直接参照する設定を追加して検証します。
  3. apt-cache policy で PHP のインストール済みバージョンと候補バージョンを確認します。
  4. ppa:ondrej/php のパッケージ(8.3.35)が更新を妨げていることを特定します。
  5. ppa-purge を導入し、PHP PPAをパージして公式パッケージへロールバックします。
  6. PHPのバージョンと関連パッケージを確認します。
  7. changelog から該当の CVE 修正パッチが含まれていることを確認します。
  8. PHP-FPMとWebサーバーを再起動します。
  9. PHP-FPMのソケット、拡張モジュール、Webサイトの応答を確認します。
  10. 一時的なAPT設定を整理し、必要に応じてPPAを再登録します。

特記事項

筆者の好みでaptitudeを用いています。必要に応じてaptに切り替えてください。

1. 発生した問題と初期事象

1.1. 脆弱性パッチが適用されない

php2shell 脆弱性への対応として、Ubuntu 公式セキュリティリポジトリ(noble-security)で配信される修正版パッケージを適用しようとしました。

しかし、以下のコマンドを実行しても、期待した PHP の更新が行われませんでした。

sudo aptitude update
sudo aptitude upgrade

一時的に security.ubuntu.com を直接参照する設定を追加して検証しましたが、更新対象として認識されない状態が続きました。

1.2. PPA側の応答遅延と503エラー

パッケージ更新を試みた際、ppa:ondrej/php 側の応答が一時的に滞り、リポジトリへのアクセスで 503 Service Unavailable が発生しました。

※この事象は、運用中のWebサイトで発生したエラーではなく、PHPパッケージの取得元である外部PPAサーバー側の応答遅延に関するものです。

PPA側の修正パッケージ配信を待たずに即時保護を図るため、Ubuntu公式セキュリティリポジトリの修正版へ切り替えるべく、PPAのパージによるロールバックを実施しました。

※これは緊急的な安全確保のための対処です。記事の後半に再び ppa:ondrej/php に戻す手順も記載しています※

2. 原因調査:APTの候補バージョンを確認

2.1. apt-cache policyを実行

apt-cache policy php8.3

実際の出力結果:

php8.3:
  インストールされているバージョン: 8.3.35-1+ubuntu24.04.1+deb.sury.org+1
  候補:               8.3.35-1+ubuntu24.04.1+deb.sury.org+1
  バージョンテーブル:
 *** 8.3.35-1+ubuntu24.04.1+deb.sury.org+1 500
        500 [https://ppa.launchpadcontent.net/ondrej/php/ubuntu](https://ppa.launchpadcontent.net/ondrej/php/ubuntu) noble/main amd64 Packages
        100 /var/lib/dpkg/status
     8.3.6-0ubuntu0.24.04.13 500
        500 [http://security.ubuntu.com/ubuntu](http://security.ubuntu.com/ubuntu) noble-security/main amd64 Packages
        500 [http://archive.ubuntu.com/ubuntu](http://archive.ubuntu.com/ubuntu) noble-updates/main amd64 Packages
     8.3.6-0ubuntu0.24.04.12 500
        500 [http://security.ubuntu.com/ubuntu](http://security.ubuntu.com/ubuntu) noble-security/main amd64 Packages
        500 [http://archive.ubuntu.com/ubuntu](http://archive.ubuntu.com/ubuntu) noble-updates/main amd64 Packages
     8.3.6-0maysync1 500
        500 [http://archive.ubuntu.com/ubuntu](http://archive.ubuntu.com/ubuntu) noble/main amd64 Packages

2.2. 原因を特定

実測結果から、以下の状態を確認しました。

  • インストール済みバージョン:8.3.35-1+ubuntu24.04.1+deb.sury.org+1
  • APTの候補バージョン:同じく 8.3.35-1+ubuntu24.04.1+deb.sury.org+1
  • Ubuntu公式セキュリティ版:8.3.6-0ubuntu0.24.04.13
  • PPA版と公式版のAPT優先度:いずれも 500

PPA版と公式版のAPT優先度は同じ(500)ですが、バージョン番号の比較(8.3.35 > 8.3.6)により、APTはPPA版を「より新しい最新版」と判定し、候補として固定していました。

その結果、Ubuntu公式セキュリティリポジトリに修正版が存在していても、APTからは「古いバージョンへのダウングレード」とみなされ、通常の更新では公式版への切り替えが行われない状態になっていました。

3. PPAのパージと公式パッケージへのロールバック

3.1. ppa-purgeをインストール

sudo aptitude install -y ppa-purge

3.2. PHP PPAをパージ

sudo ppa-purge ppa:ondrej/php

PPAを無効化し、関連パッケージを一括でUbuntu公式リポジトリのバージョン(8.3.6系列)へロールバックします。
※途中でパッケージの置き換えに関する確認([Y/n])が表示されたら、Y を入力して続行します。

3.3. 公式パッケージのインストール・整合性確保

ppa-purge の依存関係解決によって本体や FPM が外れてしまうケースを防ぐため、公式リポジトリから必要な主要パッケージが揃っていることを確実にします。

sudo aptitude install -y php8.3 php8.3-cli php8.3-fpm

→ ただし、実際に必要な PHP 拡張モジュールも別途確認してください。

php -v

実行結果:

PHP 8.3.6 (cli) (built: Oct 19 2026 15:16:58) (NTS)
Copyright (c) The PHP Group
Zend Engine v4.3.6, Copyright (c) Zend Technologies
    with Zend OPcache v8.3.6, Copyright (c), by Zend Technologies

3.4. PHP関連パッケージの状態を確認

dpkg -l | grep php8.3

PHP本体、PHP-FPM、必要な拡張モジュールがすべて 8.3.6-0ubuntu0.24.04.13 に揃っていることを確認します。

3.5. 脆弱性に対応したパッチであることを確認

外部サーバーへの通信を行わず、ローカルに解凍された変更履歴から該当の CVE 修正を確認します。

zcat /usr/share/doc/php8.3-common/changelog.Debian.gz | grep -C 10 "CVE-2026-109618"

確認結果:

php8.3 (8.3.6-0ubuntu0.24.04.13) noble-security; urgency=medium

  * SECURITY UPDATE: Remote RCE via state corruption issue
    - debian/patches/CVE-2026-109618_109619.patch: Avoid state corruption via
      bailout in Zend/tests/bug40770.phpt, Zend/tests/bug54268.phpt,
      Zend/tests/bug76846.phpt,
...
      tests/basic/oom_rfc1867_upload_progress.phpt,
      tests/output/oom_in_internal_output_handler.phpt.
    - CVE-2026-109618
    - CVE-2026-109619

 -- Marc Deslauriers <marc.deslauriers@ubuntu.com>  Mon, 19 Oct 2026 11:16:58 -0400

パッチ(CVE-2026-109618_109619.patch)が確実に組み込まれていることを確認できました。

4. PHP-FPMとWebサーバーの復旧

4.1. PHP-FPMを再起動

sudo systemctl restart php8.3-fpm

4.2. PHP-FPMの稼働状態を確認

sudo systemctl status php8.3-fpm --no-pager

Active: active (running) となっていることを確認します。

4.3. Apacheを再起動

sudo systemctl restart apache2

Apacheが正常に稼働していることを確認します。

5. 動作検証

5.1. PHP-FPMのソケットを確認

ls -la /run/php/php8.3-fpm.sock

ソケットファイルが存在し、WebサーバーとPHP-FPM間の通信路が正常であることを確認します。

5.2. PHPの拡張モジュールを確認

php -m

アプリケーションで必要な拡張モジュールがロードされていることを確認します(mbstring, mysqli, xml, curl 等)。

※PPA削除時に外れたモジュールがある場合は、公式リポジトリから個別に追加します。

sudo aptitude install php8.3-<module_name>

5.3. Webサイトへのアクセスを確認

curl -I [https://example.com/](https://example.com/)

HTTPレスポンスを確認し、503 Service Unavailable や 502 Bad Gateway が発生せず正常(200 OK など)に応答することを確認します。ブラウザからも主要機能の動作を検証します。

6. PPAの再有効化

6.1. PPAを継続利用する場合の再登録

将来的にPPA側の修正パッケージが配信され、PPA環境へ復帰させる場合は以下の手順で再有効化します。

sudo add-apt-repository ppa:ondrej/php
sudo aptitude update

6.2. 再登録後の候補バージョン確認

apt-cache policy php8.3

PPA側で修正版(CVE対応済みビルド)が提供されていることを確認した上でアップグレードを実施します。

apt list --upgradable 2>/dev/null | grep php8.3
sudo aptitude upgrade

まとめ

今回の事象は、Ubuntu公式セキュリティリポジトリにパッチが配信されていたにもかかわらず、ppa:ondrej/php のパッケージ(8.3.35)がバージョン数値の優先度によってAPTの更新候補を占有していたことが原因でした。

apt-cache policy で優先度と候補を正確に把握し、緊急度に応じて ppa-purge による公式版への一時ロールバックを選択したことで、即座に脆弱性を塞ぎつつサービスの正常稼働を維持することができました。

PHP「php2shell」脆弱性への緊急暫定対応:PHP-FPMのSession Upload Progress無効化(追記に恒久的対応策を記載)(更に追記:CVE-2026-115560にも有効)

更に更に追記 2026/10/23 22:21

本記事でのUpload Progress無効化は、CVE-2026-115560にも有効だという点を添えておきます。

更に追記 2026/10/22 4:02

修正版にアップデートしました。

追記2026/10/21 18:25

2026/10/21 18:25現在、筆者vpsでは念には念を入れてphp-fpmを暫定停止しています。

これは付け焼き刃では対処できないと判断。

sudo systemctl stop php8.3-fpm

で止めています。

→ 修正版が出たために再開しています

概要

2026年10月21日、PHPの重大な脆弱性として報じられた「php2shell」(CVE-2026-109618、CVE-2026-109619)への暫定対応として、PHP-FPMのSession Upload Progress機能を無効化します。

本対応では、session.upload_progress.enabled を Off に設定し、PHP-FPMへ反映しますが、これは本当に緩和策でしかないようでしたが……

CVE-2026-115560の暫定措置としては依然として推奨される策のようです。

2026/10/21 20:27 追記

以下、Geminiによる要約

1. 一体どういう攻撃なのか?

「細工したHTTPリクエストをWebサイトに送るだけで、外部からサーバーのOSコマンドを実行されてしまう」攻撃です。

  • 攻撃の手口:
    攻撃者がWebブラウザやツール経由で特殊なパラメータ(セッション管理やマルチパートフォームの処理に関わるリクエスト)を送信します。
  • 発生する問題:
    PHPコア(C言語で書かれたエンジン部分)内部でメモリ破壊が発生し、Webサーバーの権限で任意のプログラム(シェルなど)を遠隔実行されます。
  • 結果:
    サーバーが丸ごと乗っ取られ、ランサムウェアの設置、データ漏洩、他サイトへの踏み台攻撃などに悪用されます。

2. 大騒ぎしている理由

主に以下の4つの理由から、世界中のエンジニアやセキュリティ企業(watchTowr、各国のCERT等)が大騒ぎしています。

  1. 深刻度スコアが最大級(CVSS 9.2 〜 10.0)
    認証(ログイン)不要、事前の権限不要で、外部ネットワークから直接狙えるため、危険度が最高レベルに設定されています。
  2. 影響範囲が広すぎる
    PHP 5系から8系に至るまで非常に幅広いバージョンが影響を受け、WordPress、Laravel、EC-CUBEなど、Web上の膨大なシステムが標的になり得ます。
  3. アプリ側の改修や設定変更では防ぎきれない
    PHPスクリプト(WordPressやPHPコード自体)の書き方で防げる問題ではなく、PHPエンジンそのもののバグです。php.ini で session.upload_progress.enabled を無効化するなどの緩和策も議論されましたが、完全な遮断には至らず「パッチ適用以外に根本解決がない」と判明したためです。
  4. PoC(実証コード)がパッチ前に出回り始めた
    公式パッチの公開直前(ゼロデイ/準ゼロデイ状態)の段階で、すでに悪用を試みる検証コードや解析情報がネット上に出回り始め、攻撃の自動ボット化が危惧されたためです。

上記理由により、本設定変更は暫定的な緩和策であり、脆弱性そのものの修正を保証するものではありません。正式な修正版PHPが提供されたら、対象バージョンと修正状況を確認したうえで更新します。

また、今回の対応前にApacheのModSecurity CRSが不審なリクエストをHTTP 403で遮断したことを確認しています。WAFによる防御とPHP実行環境の対策を重ね、複数の防御層を維持します。

環境

  • OS:Ubuntu 24.04 LTS
  • Webサーバー:Apache
  • PHP:8.3
  • PHP実行方式:PHP-FPM
  • PHP-FPM設定ファイル:/etc/php/8.3/fpm/php.ini
  • 対象設定:session.upload_progress.enabled
  • 対応目的:脆弱性に対する暫定的なリスク低減

14:00の時点で実施した、さっくりとした手順

  1. PHP-FPMの現在の設定値を確認します。
  2. PHP-FPMの設定ファイルをバックアップします。
  3. session.upload_progress.enabled を Off に変更します。
  4. PHP-FPMの設定を検査します。
  5. PHP-FPMを再読み込みします。
  6. 設定値とサービスの状態を確認します。
  7. Web経由での設定反映とアップロード機能を確認します。
  8. 正式な修正版PHPの公開状況を確認し、更新します。

詳細手順

1. 現在の設定値を確認します

PHP-FPMの設定値を確認します。

sudo php-fpm8.3 -i | grep -i 'session.upload_progress.enabled'

今回の確認結果は以下のとおりでした。

session.upload_progress.enabled => On => On

設定ファイル上では該当行がコメントアウトされていました。

;session.upload_progress.enabled = On

先頭の ; はコメントを示すため、この行自体は設定として適用されません。PHPのデフォルト値が On であるため、コメントアウトされていても機能が無効化されているとは限りません。

実際の設定値を確認し、無効化が必要であることを判断します。

2. 設定ファイルをバックアップします

変更前に、PHP-FPMの設定ファイルをバックアップします。

sudo cp -a /etc/php/8.3/fpm/php.ini /etc/php/8.3/fpm/php.ini.bak-20261021

バックアップファイルが作成されたことを確認します。

ls -l /etc/php/8.3/fpm/php.ini.bak-20261021

設定変更により問題が発生した場合は、このバックアップから元の設定へ切り戻します。

3. Session Upload Progressを無効化します

設定ファイルを編集します。

sudoedit /etc/php/8.3/fpm/php.ini

以下の設定項目を探します。

;session.upload_progress.enabled = On

コメントアウトを解除するだけではなく、値を Off に変更します。

session.upload_progress.enabled = Off

同じ設定項目を重複して追加しないようにします。

変更後、差分を確認します。

sudo diff -u /etc/php/8.3/fpm/php.ini.bak-20261021 /etc/php/8.3/fpm/php.ini

意図した設定項目だけが変更されていることを確認します。

4. PHP-FPMの設定を検査します

設定ファイルの構文を検査します。

sudo php-fpm8.3 -t

正常な場合は、設定ファイルのテストに成功した旨が表示されます。

エラーが表示された場合は、PHP-FPMを再読み込みせず、設定ファイルを修正します。

5. PHP-FPMへ設定を反映します

設定検査に成功したら、PHP-FPMを再読み込みします。

sudo systemctl reload php8.3-fpm

続いてサービスの状態を確認します。

systemctl status php8.3-fpm --no-pager

サービスが正常に稼働していることを確認します。

6. 設定値を再確認します

PHP-FPMの設定値を再確認します。

sudo php-fpm8.3 -i | grep -i 'session.upload_progress.enabled'

期待する結果は以下のとおりです。

session.upload_progress.enabled => Off => Off

ただし、このコマンドは新しく起動したPHP-FPMプロセスの設定を確認するものであり、稼働中のWebリクエストが使用する設定値を直接保証するものではありません。

必要に応じて、Web経由でPHPの設定値を確認します。確認用スクリプトを公開する場合は、外部からアクセスできないように制限し、確認後は必ず削除します。

7. Webアプリケーションの動作を確認します

設定反映後、対象のWebアプリケーションが正常に動作することを確認します。

  • Webサイトの表示
  • ログインとセッション維持
  • ファイルアップロード
  • アップロード後のファイル処理
  • ApacheとPHP-FPMのエラーログ

通常のファイルアップロード自体は、この設定変更によって原則として無効になりません。ただし、PHPのSession Upload Progress機能に依存した進捗表示などには影響する可能性があります。

作業上の注意

影響範囲

session.upload_progress.enabled = Off にすると、PHPがセッションにアップロード進捗情報を記録する機能が無効になります。

通常のファイルアップロード、ログイン、セッション管理などは、この設定変更だけで通常は影響を受けません。ただし、進捗情報を利用するアプリケーションについては動作確認が必要です。

切り戻し

変更後にアプリケーションの動作不良などが発生した場合は、バックアップから設定を復元します。

sudo cp -a /etc/php/8.3/fpm/php.ini.bak-20261021 /etc/php/8.3/fpm/php.ini

復元後、設定を検査します。

sudo php-fpm8.3 -t

検査に成功したら、PHP-FPMを再読み込みします。

sudo systemctl reload php8.3-fpm

最後にサービスの状態とWebアプリケーションの動作を確認します。

なお、切り戻しによって設定値が On に戻る場合、暫定緩和策も解除されます。切り戻しは必要な場合に限り、影響とリスクを確認して実施します。

根本対策

本対応は暫定的な緩和策です。正式な修正版PHPが公開されたら、PHP公式およびUbuntuのセキュリティ情報を確認します。

Ubuntuでは修正がバックポートされる場合があるため、バージョン番号だけで判断せず、使用中のリリースに対する修正状況を確認します。

修正版が提供されたら、実際にWebアプリケーションが使用しているPHP実行環境を更新し、動作確認を実施します。

まとめ

PHPの設定ファイルで該当項目がコメントアウトされていても、機能が無効になっているとは限りません。PHPのデフォルト値が On であれば、コメントアウトされた状態でも機能は有効です。

今回の対応では、設定ファイルの記述だけで判断せず、実際の設定値を確認したうえで Off を明示し、PHP-FPMへの反映と動作確認を行います。

WAFによるリクエスト遮断、PHP実行環境の暫定対策、修正版への更新を組み合わせ、単一の防御機構に依存しない構成を維持します。

「Jailhouse Lock」の運用・トラブルシューティング(mod_rewriteで詰まったところ)

この記事の修正となります。

Webサーバーを公開していると、日常的に /wp-admin や /.git、生IPアドレスへのスキャン(Probe)が大量に飛んできます。

単に 404 や 403 を返すだけでも防御にはなりますが、今回は「悪意あるスキャナーやボットを検知し、専用のトラップ(檻)ページへ自動転送・隔離する」という多層防御システム(通称: Jailhouse Lock)を Apache + ModSecurity で構築しました。

構築の過程でハマった「設定の競合」と「ModSecurityのフェーズ問題」の解決策を記録として残します。

1. 目的

  1. 不正スキャンの隔離:
    隠しファイル(/.git)、WordPress探索(/wp-admin)、CGI探索(/cgi-bin)、生IP直撃などの不審なリクエストを検知し、アプリケーション(Rails/Node/PHP等)へ届く前に専用のトラップページ(檻)へ 302 Redirect する。
  2. 正常通信の保護:
    通常のブラウザからのアクセスや Let's Encrypt(ACME チャレンジ)などの正常な通信に一切影響を与えない。
  3. 無駄なログ・負荷の削減:
    ボットによる無駄なリクエスト処理コストを最小限に抑える。

2. 最初の設定と準備

(1) トラップページ(檻)ディレクトリとファイルの準備

トラップ先のコンテンツを配置するディレクトリとダミーファイルを作成します。

# 檻となるディレクトリの作成
sudo mkdir -p /var/www/jailhouse_trap

# トラップページの作成(例: Git用、WordPress用、CGI用、生IP/ボット用)
sudo touch /var/www/jailhouse_trap/git.html
sudo touch /var/www/jailhouse_trap/login.html
sudo touch /var/www/jailhouse_trap/cgi.html
sudo touch /var/www/jailhouse_trap/topgear.html

# 権限の調整
sudo chown -R www-data:www-data /var/www/jailhouse_trap

(2) Apache VirtualHost の基本設定(修正後)

諸々ハマったあとで最終的に決定した内容がこれです。

  • ドメイン名: example.com
  • ドキュメントルート: /var/www/my_app/public
  • トラップディレクトリ Alias: /__jailhouse_lock -> /var/www/jailhouse_trap
<VirtualHost *:443>
    ServerName example.com
    DocumentRoot /var/www/my_app/public

    # ----- 檻(トラップベースディレクトリ)の定義 -----
    <IfModule mod_alias.c>
        Alias /__jailhouse_lock /var/www/jailhouse_trap

        <Directory /var/www/jailhouse_trap>
            Options -Indexes -ExecCGI
            AllowOverride None
            Require all granted
        </Directory>
    </IfModule>

    # ----- Jailhouse Lock (mod_rewrite トラップ群) -----
    <IfModule mod_rewrite.c>
        RewriteEngine On

        # ----- 0. ループ防止および例外通過(最優先判定) -----
        # 檻(トラップページ自身)と ACME チャレンジ(SSL更新)は即座に通過
        RewriteCond %{REQUEST_URI} ^/__jailhouse_lock [NC,OR]
        RewriteCond %{REQUEST_URI} ^/\.well-known/acme-challenge/ [NC]
        RewriteRule ^ - [L]

        # ----- 1. トラップ1: 隠しファイル / ドットディレクトリ探知 -----
        # /.git, /.env, /.htaccess 等
        RewriteRule ^/\. /__jailhouse_lock/git.html [R=302,L,E=dontlog:1]

        # ----- 2. トラップ1.5: WordPress探知 -----
        # /wp-admin, /wp-admin/*, /wordpress配下, /wp-login.php を隔離
        RewriteRule ^/(wp-admin|wordpress)(/.*)?$ /__jailhouse_lock/login.html [R=302,L,NC,E=dontlog:1]
        RewriteRule ^/wp-login\.php$ /__jailhouse_lock/login.html [R=302,L,NC,E=dontlog:1]

        # ----- 3. トラップ2: CGI探索者探知 -----
        # /cgi-bin配下、または .cgi, .pl, .py 拡張子を隔離
        RewriteRule ^/(cgi-bin|cgi-sys|cgi-mod)(/.*)?$ /__jailhouse_lock/cgi.html [R=302,L,NC,E=dontlog:1]
        RewriteRule \.(cgi|pl|py)$ /__jailhouse_lock/cgi.html [R=302,L,NC,E=dontlog:1]

        # ----- 4. トラップ3: 生IP直撃 / Hostヘッダー不正判定 -----
        # HostヘッダーがIPアドレス形式、または空の場合
        RewriteCond %{HTTP_HOST} ^[0-9]+\.[0-9]+\.[0-9]+\.[0-9]+(:[0-9]+)?$ [OR]
        RewriteCond %{HTTP_HOST} ^$
        RewriteRule ^.*$ /__jailhouse_lock/topgear.html [R=302,L,E=dontlog:1]

        # ----- 5. トラップ4: 悪質ボット隔離 -----
        RewriteCond %{ENV:bad_bot} ^1$
        RewriteRule ^.*$ /__jailhouse_lock/topgear.html [R=302,L,E=dontlog:1]

    </IfModule>
</VirtualHost>

3. 想定外の動きと原因(ハマりポイント)

構築中、/wp-login.php は正常に 302 で login.html に転送されるものの、/wp-admin や /wp-admin/admin-ajax.php などのディレクトリ配下へのアクセスが 404 Not Found になる現象が発生しました。

原因の調査で分かった「罠」は以下の2点です。

原因1:ModSecurity(Phase 1)による先行拒否

過去に ModSecurity 側に「WordPress 探索者を 404 で弾く」独自ルール(phase:1)を記述していました。

# [原因となった旧 ModSecurity ルール]
SecRule REQUEST_URI "@rx /(?:wordpress|wp-admin)" \
    "id:10002, phase:1, deny, status:404"

ModSecurity の phase:1(リクエストヘッダー受信直後)は、Apache の mod_rewrite 処理(Phase 2 相当)よりも前に実行されます。
そのため、mod_rewrite でリダイレクト(302)をかける前に ModSecurity が 404 を返してリクエストを終了させていました。

原因2:Alias と mod_rewrite のパス展開の競合

当初 /wp-admin を Alias /wp-admin /var/www/jailhouse_trap/login.html で処理しようとしたところ、/wp-admin/admin-ajax.php へのアクセスが /var/www/jailhouse_trap/login.html/admin-ajax.php という存在しないファイルパスへ展開され、Apache 内部で 404 が発生していました。

4. 修正内容

  1. ModSecurity 側の旧ルールの撤去:
    ModSecurity 側で 404 拒否していた旧ルールを削除し、URI 判定と転送ロジックをすべて mod_rewrite へ統一・一元化しました。
  2. Alias から mod_rewrite(正規表現捕獲)への切り替え:
    サブパスを持つ可能性のあるディレクトリトラップ(wp-admin や cgi-bin)は、Alias ではなく RewriteRule の正規表現 ^/(wp-admin|wordpress)(/.*)?$ を使用して配下ファイルごと一網打尽に捕捉するように変更しました。

5. 修正後の検証テスト

設定反映後、curl を使用して各エンドポイントの挙動をテストしました。

1 WordPress探索のテスト

# 末尾スラッシュなし
curl -i -A "Mozilla/5.0" "https://example.com/wp-admin"

# 配下ファイル
curl -i -A "Mozilla/5.0" "https://example.com/wp-admin/admin-ajax.php"

【結果】
いずれも HTTP/1.1 302 Found が返り、Location: [https://example.com/__jailhouse_lock/login.html](https://example.com/__jailhouse_lock/login.html) へ正しく誘導されました。

2 CGI探索のテスト

curl -i -A "Mozilla/5.0" "https://example.com/cgi-bin/test.cgi"

【結果】
HTTP/1.1 302 Found で Location: [https://example.com/__jailhouse_lock/cgi.html](https://example.com/__jailhouse_lock/cgi.html) へ誘導。

3 生IPアドレスアクセスのテスト

curl -i -k "https://192.0.2.1/"

【結果】
HTTP/1.1 302 Found で Location: [https://192.0.2.1/__jailhouse_lock/topgear.html](https://192.0.2.1/__jailhouse_lock/topgear.html) へ誘導後、ModSecurity との連携により無効化完了。

4 正常アクセス・ループ防止テスト

# 正常なブラウザ通信
curl -i -A "Mozilla/5.0" "https://example.com/"

# トラップページへの直接アクセス(ループ確認)
curl -i -A "Mozilla/5.0" "https://example.com/__jailhouse_lock/git.html"

【結果】
いずれもリダイレクトループを起こさず HTTP/1.1 200 OK が返り、正常なコンテンツが表示されました。

まとめ

今回のハマりポイントを通して、「WAF (ModSecurity) と Apache (mod_rewrite) の処理フェーズの違い」を理解することの重要性を痛感しました。

多くのクローラーは

  • IPアドレス直打ちである
  • ヘッダが欠損している
  • wp-adminやwp-loginを真っ先に狙ってくる
  • 隠しファイルを執拗に狙う

が私の経験則です。であれば、

  • IPアドレス直打ちやヘッダの欠損はまともにリクエストをさせない。(前段で弾く)
  • 存在しないパスや隠しファイルはダミーページに飛ばす

で、多くのノイズを減らすことができます。

攻撃者は何を探していたのか? ModSecurityのログから読み解く自動スキャンの狙い

Webサーバーを運用していると、ModSecurityやApacheのエラーログには毎日のように不審なアクセスが記録されます。

その多くは機械的なスキャンですが、中には「攻撃者が何を考えてこのURLを叩いているのか」がよく分かるものがあります。

今回は、筆者のサーバーで実際に検知したログをもとに、「攻撃者は何を探していたのか」「WAFはどこを危険と判断したのか」を読み解いてみます。

ログの内容抜粋

※ IPアドレスやドメイン名はダミーに置き換えています。

[Mon Sep 07 02:49:34.840627 2026] [security2:error] [pid 136747:tid 137621397292736] [client 192.0.2.100:55326] [client 192.0.2.100] ModSecurity: Warning. String match within "/content-encoding/ /proxy/ /lock-token/ /content-range/ /if/ /x-http-method-override/ /x-http-method/ /x-method-override/ /x-middleware-subrequest/ /expect/" at TX:header_name_920450_x-middleware-subrequest. [file "/usr/share/modsecurity-crs/coreruleset/rules/REQUEST-920-PROTOCOL-ENFORCEMENT.conf"] [line "1228"] [id "920450"] [msg "HTTP header is restricted by policy (/x-middleware-subrequest/)"] [data "Restricted header detected: /x-middleware-subrequest/"] [severity "CRITICAL"] [ver "OWASP_CRS/4.28.0"] [tag "application-multi"] [tag "language-multi"] [tag "platform-multi"] [tag "attack-protocol"] [tag "paranoia-level/1"] [tag "OWASP_CRS"] [tag "OWASP_CRS/PROTOCOL-ENFORCEMENT"] [tag "capec/1000/210/272"] [hostname "example.com"] [uri "/_image"] [unique_id "ap2nrj8r0OUiUBbK7B-mlAAAAMo"]
[Mon Sep 07 02:49:34.841346 2026] [security2:error] [pid 136747:tid 137621397292736] [client 192.0.2.100:55326] [client 192.0.2.100] ModSecurity: Warning. Pattern match "(?i)(?:[/\\\\x5c]|%(?:2(?:f|5(?:2f|5c|c(?:1%259c|0%25af))|%46)|5c|c(?:0%(?:[2aq]f|5c|9v)|1%(?:[19p]c|8s|af))|(?:bg%q|(?:e|f(?:8%8)?0%8)0%80%a)f|u(?:221[56]|EFC8|F025|002f)|%3(?:2(?:%(?:%6|4)6|F)|5%%63)|1u)|0x(?:2f|5c))(?:\\\\.(?:%0[01]|\\\\?)?|\\\\?\\\\.?|%(?:2( ..." at REQUEST_URI_RAW. [file "/usr/share/modsecurity-crs/coreruleset/rules/REQUEST-930-APPLICATION-ATTACK-LFI.conf"] [line "54"] [id "930100"] [msg "Path Traversal Attack (/../) or (/.../)"] [data "Matched Data: /../ found within REQUEST_URI_RAW: /_image?href=/../../../.env"] [severity "CRITICAL"] [ver "OWASP_CRS/4.28.0"] [tag "application-multi"] [tag "language-multi"] [tag "platform-multi"] [tag "attack-lfi"] [tag "paranoia-level/1"] [tag "OWASP_CRS"] [tag "OWASP_CRS/ATTACK-LFI"] [tag "capec/1000/255/153/126"] [hostname "example.com"] [uri "/_image"] [unique_id "ap2nrj8r0OUiUBbK7B-mlAAAAMo"]
[Mon Sep 07 02:49:34.842572 2026] [security2:error] [pid 136747:tid 137621397292736] [client 192.0.2.100:55326] [client 192.0.2.100] ModSecurity: Access denied with code 403 (phase 2). Operator GE matched 5 at TX:blocking_inbound_anomaly_score. [file "/usr/share/modsecurity-crs/coreruleset/rules/REQUEST-949-BLOCKING-EVALUATION.conf"] [line "233"] [id "949110"] [msg "Inbound Anomaly Score Exceeded (Total Score: 35)"] [ver "OWASP_CRS/4.28.0"] [tag "anomaly-evaluation"] [tag "OWASP_CRS"] [hostname "example.com"] [uri "/_image"] [unique_id "ap2nrj8r0OUiUBbK7B-mlAAAAMo"]
[Mon Sep 07 02:49:34.842998 2026] [security2:error] [pid 136747:tid 137621397292736] [client 192.0.2.100:55326] [client 192.0.2.100] ModSecurity: Warning. Unconditional match in SecAction. [file "/usr/share/modsecurity-crs/coreruleset/rules/RESPONSE-980-CORRELATION.conf"] [line "99"] [id "980170"] [msg "Anomaly Scores: (Inbound Scores: blocking=35, detection=35, per_pl=35-0-0-0, threshold=5) - (Outbound Scores: blocking=0, detection=0, per_pl=0-0-0-0, threshold=4) - (SQLI=0, XSS=0, RFI=0, LFI=30, RCE=0, PHPI=0, HTTP=0, SESS=0, COMBINED_SCORE=35)"] [ver "OWASP_CRS/4.28.0"] [tag "reporting"] [tag "OWASP_CRS"] [hostname "example.com"] [uri "/var/www/app/public/404.html"] [unique_id "ap2nrj8r0OUiUBbK7B-mlAAAAMo"]
[Mon Sep 07 02:49:34.849032 2026] [security2:error] [pid 136747:tid 137621380507328] [client 192.0.2.100:55444] [client 192.0.2.100] ModSecurity: Warning. String match within "/content-encoding/ /proxy/ /lock-token/ /content-range/ /if/ /x-http-method-override/ /x-http-method/ /x-method-override/ /x-middleware-subrequest/ /expect/" at TX:header_name_920450_x-middleware-subrequest. [file "/usr/share/modsecurity-crs/coreruleset/rules/REQUEST-920-PROTOCOL-ENFORCEMENT.conf"] [line "1228"] [id "920450"] [msg "HTTP header is restricted by policy (/x-middleware-subrequest/)"] [data "Restricted header detected: /x-middleware-subrequest/"] [severity "CRITICAL"] [ver "OWASP_CRS/4.28.0"] [tag "application-multi"] [tag "language-multi"] [tag "platform-multi"] [tag "attack-protocol"] [tag "paranoia-level/1"] [tag "OWASP_CRS"] [tag "OWASP_CRS/PROTOCOL-ENFORCEMENT"] [tag "capec/1000/210/272"] [hostname "example.com"] [uri "/google-credentials.json"] [unique_id "ap2nrj8r0OUiUBbK7B-mlQAAAMw"]
[Mon Sep 07 02:49:34.849243 2026] [security2:error] [pid 136747:tid 137621380507328] [client 192.0.2.100:55444] [client 192.0.2.100] ModSecurity: Warning. Matched phrase "credentials.json" at REQUEST_FILENAME. [file "/usr/share/modsecurity-crs/coreruleset/rules/REQUEST-930-APPLICATION-ATTACK-LFI.conf"] [line "150"] [id "930130"] [msg "Restricted File Access Attempt"] [data "Matched Data: credentials.json found within REQUEST_FILENAME: /google-credentials.json"] [severity "CRITICAL"] [ver "OWASP_CRS/4.28.0"] [tag "application-multi"] [tag "language-multi"] [tag "platform-multi"] [tag "attack-lfi"] [tag "paranoia-level/1"] [tag "OWASP_CRS"] [tag "OWASP_CRS/ATTACK-LFI"] [tag "capec/1000/255/153/126"] [hostname "example.com"] [uri "/google-credentials.json"] [unique_id "ap2nrj8r0OUiUBbK7B-mlQAAAMw"]
[Mon Sep 07 02:49:34.850394 2026] [security2:error] [pid 136747:tid 137621380507328] [client 192.0.2.100:55444] [client 192.0.2.100] ModSecurity: Access denied with code 403 (phase 2). Operator GE matched 5 at TX:blocking_inbound_anomaly_score. [file "/usr/share/modsecurity-crs/coreruleset/rules/REQUEST-949-BLOCKING-EVALUATION.conf"] [line "233"] [id "949110"] [msg "Inbound Anomaly Score Exceeded (Total Score: 10)"] [ver "OWASP_CRS/4.28.0"] [tag "anomaly-evaluation"] [tag "OWASP_CRS"] [hostname "example.com"] [uri "/google-credentials.json"] [unique_id "ap2nrj8r0OUiUBbK7B-mlQAAAMw"]
[Mon Sep07 02:49:34.850677 2026] [security2:error] [pid 136747:tid 137621380507328] [client 192.0.2.100:55444] [client 192.0.2.100] ModSecurity: Warning. Unconditional match in SecAction. [file "/usr/share/modsecurity-crs/coreruleset/rules/RESPONSE-980-CORRELATION.conf"] [line "99"] [id "980170"] [msg "Anomaly Scores: (Inbound Scores: blocking=10, detection=10, per_pl=10-0-0-0, threshold=5) - (Outbound Scores: blocking=0, detection=0, per_pl=0-0-0-0, threshold=4) - (SQLI=0, XSS=0, RFI=0, LFI=5, RCE=0, PHPI=0, HTTP=0, SESS=0, COMBINED_SCORE=10)"] [ver "OWASP_CRS/4.28.0"] [tag "reporting"] [tag "OWASP_CRS"] [hostname "example.com"] [uri "/var/www/app/public/404.html"] [unique_id "ap2nrj8r0OUiUBbK7B-mlQAAAMw"]
[Mon Sep 07 02:49:34.990300 2026] [security2:error] [pid 136775:tid 137621634270912] [client 192.0.2.100:55394] [client 192.0.2.100] ModSecurity: Warning. String match within "/content-encoding/ /proxy/ /lock-token/ /content-range/ /if/ /x-http-method-override/ /x-http-method/ /x-method-override/ /x-middleware-subrequest/ /expect/" at TX:header_name_920450_x-middleware-subrequest. [file "/usr/share/modsecurity-crs/coreruleset/rules/REQUEST-920-PROTOCOL-ENFORCEMENT.conf"] [line "1228"] [id "920450"] [msg "HTTP header is restricted by policy (/x-middleware-subrequest/)"] [data "Restricted header detected: /x-middleware-subrequest/"] [severity "CRITICAL"] [ver "OWASP_CRS/4.28.0"] [tag "application-multi"] [tag "language-multi"] [tag "platform-multi"] [tag "attack-protocol"] [tag "paranoia-level/1"] [tag "OWASP_CRS"] [tag "OWASP_CRS/PROTOCOL-ENFORCEMENT"] [tag "capec/1000/210/272"] [hostname "example.com"] [uri "/keys/service-account.json"] [unique_id "ap2nrn53LMPC8yKIKKnxogAAAYU"]
[Mon Sep 07 02:49:34.991569 2026] [security2:error] [pid 136775:tid 137621634270912] [client 192.0.2.100:55394] [client 192.0.2.100] ModSecurity: Access denied with code 403 (phase 2). Operator GE matched 5 at TX:blocking_inbound_anomaly_score. [file "/usr/share/modsecurity-crs/coreruleset/rules/REQUEST-949-BLOCKING-EVALUATION.conf"] [line "233"] [id "949110"] [msg "Inbound Anomaly Score Exceeded (Total Score: 5)"] [ver "OWASP_CRS/4.28.0"] [tag "anomaly-evaluation"] [tag "OWASP_CRS"] [hostname "example.com"] [uri "/keys/service-account.json"] [unique_id "ap2nrn53LMPC8yKIKKnxogAAAYU"]

普通のブラウザは送らないHTTPヘッダ

最初にModSecurityが反応したのは次のルールでした。

HTTP header is restricted by policy
Restricted header detected: x-middleware-subrequest

この X-Middleware-Subrequest は、一般的なWebブラウザが送るヘッダではありません。これは Next.js が内部処理で利用する特殊なヘッダとして知られており、近年では

「このヘッダを偽装すれば認証を回避できないか」

という攻撃が数多く試されています。つまり攻撃者は、

「このサーバーは Next.js ではないか?」

という前提でアクセスを始めています。ModSecurityは「通常の利用者が送るはずのないヘッダ」と判断し、この時点で危険なアクセスとして記録しました。

本命は .env ファイル

続いて現れたのがこちらです。

/_image?href=/../../../.env

一見すると画像を要求しているように見えますが、本当の目的は画像ではありません注目すべきなのは

../../../.env

という部分です。

../../../ が意味するもの

../ は

「一つ上のディレクトリへ移動する」

という意味を持ちます。

つまり

../../../.env

とは、

Web公開ディレクトリ
        ↓
      ../
        ↓
      ../
        ↓
      ../
        ↓
       .env

というように、公開ディレクトリの外側にある設定ファイルを読もうとしていることになります。これは Path Traversal(ディレクトリトラバーサル) と呼ばれる典型的な攻撃手法です。

なぜ .env を狙うのか

最近のWebアプリケーションでは、

.env

に重要な設定が保存されています。

例えば

DB_PASSWORD=
API_KEY=
SECRET_KEY=
AWS_SECRET_ACCESS_KEY=
SMTP_PASSWORD=

などです。もし .env が取得できてしまえば、

  • データベースへ接続
  • クラウドサービスへの接続
  • メールサーバーの悪用
  • 他システムへの横展開

など、一気に被害が拡大する可能性があります。攻撃者にとって .env は「宝箱」のような存在なのです。

WAFは何を見ていたのか

今回のログでは

930100

と

930110

という二つのルールが繰り返し反応していました。

Rule 930100

こちらは

パストラバーサルらしい文字列

を検知するルールです。

単純な

../

だけではなく、

URLエンコードやUnicode表現など、回避を試みた表現まで幅広く検査します。

Rule 930110

こちらはもっと単純です。実際に

../

という並びを検出します。

つまり、

  • URI全体
  • パラメータ
  • エンコード表現

それぞれを別々に検査しているため、同じリクエストでも複数回ヒットしています。

次に探し始めたもの

攻撃者は .env の次に、

/google-credentials.json

へアクセスしました。さらに

/keys/service-account.json

というリクエストも続いています。これは Google Cloud や Firebase などで利用される サービスアカウント鍵 を探しています。これらのJSONファイルには

private_key
client_email
project_id

などが含まれており、環境によってはGoogle Cloud APIを操作できる権限が保存されています。そのためOWASP CRSには、

Restricted File Access Attempt

という専用ルールが用意されており、今回も即座にブロックされました。

WAFが35点という高スコアを付けた理由

最後には

Inbound Scores

blocking = 35
LFI = 30

という結果が記録されています。

OWASP CRSは、一つのルールだけでブロックするのではなく、「怪しい行動の積み重ね」を点数化します。

今回であれば、

  • 通常使われないHTTPヘッダ
  • パストラバーサル
  • .env を狙うアクセス
  • 危険なファイル名へのアクセス

といった複数の危険要素が重なった結果、35点 という非常に高い危険度になりました。

既定では5点程度でブロックされるため、このアクセスは「かなり悪質」と判断されたことになります。

このログから見える攻撃者の思考

このログを見ていると、攻撃者は無差別にURLを叩いているようでいて、実際には一定の手順に沿って行動していることが分かります。

  1. まず特殊なHTTPヘッダを送ってNext.js系のアプリケーションではないかを探る。
  2. 次に画像APIを悪用できないか試し、.env を読み出せるか確認する。
  3. 失敗すると今度はGoogle Cloudの認証情報やサービスアカウント鍵を探し始める。

つまり、この一連のアクセスは

「秘密情報(Secrets)がどこかに置きっぱなしになっていないか」

を高速で探し回る自動スキャンなのです。

サーバーそのものを壊すことが目的ではなく、認証情報を盗み出して、その先にあるデータベースやクラウドサービスへ侵入することが本当の狙いと言えるでしょう。

ログを一つひとつ眺めるだけでは「また攻撃が来た」で終わってしまいます。しかし、攻撃者の行動を時系列で追ってみると、「何を探していたのか」「WAFは何を危険だと判断したのか」が見えてきます。

WAFは単に「怪しい文字列」を検出しているのではありません。攻撃者の行動全体を点数化し、その積み重ねから危険度を評価しています。

Backblaze B2をLinuxへ常駐マウントする:/etc/fstabを使わず、systemdサービスで自動起動と自己修復を実現する

前回の記事では、WasabiからBackblaze B2へのデータ移行についてまとめました。これでデータそのものは移動できましたが、それだけではWebアプリケーションから利用することはできません。

Redmineから見れば、これまで通り「files」ディレクトリが存在しているだけであり、その保存先がローカルSSDなのか、Backblaze B2なのかは意識しない構成が理想です。

そのためには、Backblaze B2をLinuxへマウントし、通常のディレクトリとして扱えるようにする必要があります。

今回は、そのための仕組みとしてrclone mountを利用しました。問題は、「どうやって常駐させるか」です。

古くからLinuxでは/etc/fstabへ記述して起動時にマウントする方法が紹介されています。しかし今回は、その方法は採用しませんでした。理由は単純です。クラウドストレージはネットワークの向こう側にあります。

ローカルディスクと同じ感覚でOS起動時にマウントしようとすると、起動順序や通信断など、物理ディスクでは考えなくてよい問題が発生します。

今回はそうしたリスクを避けるため、systemdサービスとしてrclone mountを常駐させる構成にしました。

systemdを選んだ理由

/etc/fstabは非常に便利ですが、クラウドストレージでは少し事情が変わります。

OS起動時、まだネットワークやDNSが利用できないタイミングでマウント処理が実行されると、ホスト名の名前解決に失敗し、そのまま起動処理が止まってしまうことがあります。

設定によってはレスキューモードへ入ってしまうため、「ストレージが利用できない」だけでは済みません。

また、運用中に通信断などでrclone mountが終了してしまった場合も、/etc/fstabには再起動する仕組みがありません。

つまり、一度落ちると手動で復旧するまで、Redmineから添付ファイルへアクセスできない状態が続いてしまいます。systemdであれば、この問題を比較的素直に解決できます。

After=network-online.targetによってネットワークが利用可能になるまで起動を待機でき、さらにRestart=alwaysを指定すれば、万が一プロセスが終了しても自動的に再起動してくれます。

単に「起動時にマウントする」のではなく、「サービスとして運用する」という考え方です。

FUSEの準備を行う

rclone mountはFUSE(Filesystem in Userspace)を利用して動作します。

今回は一般ユーザーでマウントを実行しつつ、Webサーバー(www-data)から読み書きできるようにしたかったため、まずFUSE側の設定を変更しました。

念のためバックアップを取得した上で、/etc/fuse.confのuser_allow_otherを有効にします。

  • バックアップ
sudo cp -p /etc/fuse.conf /etc/fuse.conf.orig

user_allow_other を有効化

sudo sed -i 's/#user_allow_other/user_allow_other/' /etc/fuse.conf

続いてマウントポイントを作成します。

sudo mkdir -p /mnt/app_storage
sudo chown -R $USER:www-data /mnt/app_storage
sudo chmod 775 /mnt/app_storage

今回は実行ユーザーが管理しつつ、Webサーバーからも書き込み可能な権限にしました。

systemdサービスを作成する

続いて、rclone mountをsystemdサービスとして登録します。

sudo tee /etc/systemd/system/rclone-b2-app.service << 'EOF'
[Unit]
Description=Rclone Mount Backblaze B2 for Application Storage
After=network-online.target
Wants=network-online.target

[Service]
Type=notify
User=appuser
Group=appuser
ExecStart=/usr/bin/rclone mount b2-remote:dest-backup/app_data /mnt/app_storage \
  --allow-other \
  --vfs-cache-mode full \
  --vfs-cache-max-size 10G \
  --vfs-cache-max-age 24h \
  --uid 33 --gid 33 \
  --umask 002 \
  --log-level INFO \
  --log-file /var/log/rclone-b2-app.log
ExecStop=/bin/fusermount3 -u -z /mnt/app_storage
Restart=always
RestartSec=10

[Install]
WantedBy=multi-user.target
EOF

今回の設定で特に意識したのは、アプリケーションとの互換性です。

--vfs-cache-mode fullを指定することで、読み書きをローカルキャッシュ経由で処理し、多くのWebアプリケーションが通常のファイルシステムと同じように扱えるようになります。

また、

--uid 33
--gid 33

を指定し、見かけ上の所有者をwww-dataへ変更しています。これにより、Redmineなどから見ても通常の添付ファイルディレクトリとして扱うことができます。

ログについてもsystemd任せにせず、専用ファイルへ出力するよう設定しました。

sudo touch /var/log/rclone-b2-app.log
sudo chown appuser:appuser /var/log/rclone-b2-app.log

問題が起きた際に、原因を追いやすくするためです。

サービスとして起動する

設定が終わったら、systemdへ登録します。

sudo systemctl daemon-reload
sudo systemctl enable --now rclone-b2-app

状態は、

sudo systemctl status rclone-b2-app

で確認できます。Active: active (running)となっていれば正常です。

続いて、

ls -la /mnt/app_storage/files/

などで、Backblaze B2上のデータがマウントされていることを確認します。ここまで来れば、Linuxからは通常のディレクトリとして扱える状態になっています。

Redmineを止めずに切り替える

最後は、Redmineが参照する添付ファイルディレクトリを切り替えます。今回はシンボリックリンクを利用していたため、

cd /var/www/redmine
ln -sfn /mnt/app_storage/files files

だけで切り替えられました。Linuxではシンボリックリンクそのものを置き換える処理は一瞬で完了します。

つまり、Redmineから見ると「files」という入り口が別の場所を指すようになるだけであり、中途半端な状態が発生しません。

このような、一度に切り替える方法は一般にアトミックな切り替えと呼ばれます。アプリケーションを停止することなく保存先だけを差し替えられるため、運用中のシステムでは非常に扱いやすい方法です。

最後は実際に読み書きを確認する

切り替えたら、必ずWebアプリケーションから動作を確認します。

まずは既存チケットを開き、添付ファイルや画像が問題なく表示・ダウンロードできることを確認しました。

続いて、新しいチケットを作成し、テスト用ファイルを添付します。

Redmine上で正常に保存できることに加え、Backblaze B2の管理画面でもファイル数と使用容量が増えていることを確認しました。

読み込みだけでなく、書き込みまで正常に動作することが確認できれば、移行作業は完了です。

おわりに

Backblaze B2への移行は、データをコピーしただけでは終わりではありません。

Webアプリケーションからこれまで通り利用でき、通信断が発生しても自動的に復旧し、運用者が特別なことを意識しなくても済む状態になって初めて、「移行が終わった」と言えるのだと思います。

今回はrclone mountをsystemdサービスとして管理することで、起動順序や通信断といったクラウドストレージ特有の課題にも対応できる構成になりました。

今後は、この構成でRedmineやPiwigoなどを実際に運用しながら、VFSキャッシュのサイズやメモリ消費、レスポンスへの影響なども継続して検証していく予定です。

rcloneを使ったクラウド間データ移行:WasabiからBackblaze B2へ直接ストリーミング同期する

前回の記事では、WasabiからBackblaze B2へ移行する理由と、B2のアカウント作成から接続確認までをまとめました。

今回は実際に、Wasabiへ保存されているデータをBackblaze B2へ移行します。

「クラウドからクラウドへデータを移す」と聞くと、一度ローカルへダウンロードし、それを再びアップロードするイメージを持つ方も多いかもしれません。

筆者も当初はその方法を考えていました。

しかし、この方法ではサーバーのディスク容量を一時的に消費するだけでなく、ダウンロードとアップロードの二重の転送が発生します。データ量が増えるほど、作業時間もストレージ使用量も無視できません。

そこで今回は、rclone が持つリモート間同期機能を利用し、WasabiからBackblaze B2へ直接データを転送しました。

Linuxサーバーはデータを一時的に中継するだけで、ローカルディスクへ保存することはありません。ストレージAPI同士がストリームとしてデータを受け渡すため、容量を気にすることなく移行できます。

本記事では、接続確認からドライラン、本番同期、そして移行後の整合性確認までの流れをまとめます。

今回の移行環境

今回の環境は次の通りです。

  • サーバー:Ubuntu 24.04 LTS
  • ツール:rclone
  • 移行元:Wasabi(S3互換)
  • 移行先:Backblaze B2
  • 移行対象:app_data ディレクトリ

今回はs3fsなどでマウントしたディレクトリは一切利用せず、rclone syncによるクラウド間同期のみで移行を行いました。

まずは接続できることを確認する

同期を始める前に、移行元・移行先の両方へ問題なく接続できることを確認します。今回は、それぞれ次のようなRemoteを登録しました。

Wasabi

[wasabi-remote]
type = s3
provider = Wasabi
access_key_id = <WASABI_ACCESS_KEY>
secret_access_key = <WASABI_SECRET_KEY>
region = ap-northeast-2
endpoint = s3.ap-northeast-2.wasabisys.com

Backblaze B2

[b2-remote]
type = b2
account = <B2_APPLICATION_KEY_ID>
key = <B2_APPLICATION_KEY>
hard_delete = true

設定後は、それぞれのバケット一覧が取得できることを確認します。

# Wasabi
rclone lsd wasabi-remote:

# Backblaze B2
rclone lsd b2-remote:

ここでエラーが出るようであれば、APIキーやアクセス権限を見直しておきます。

最初に移行対象を確認する

同期コマンドを実行する前に、まず対象となるデータ量を確認します。

容量だけではなく、オブジェクト数もこの段階で記録しておくと、移行後の確認が非常に楽になります。

rclone size wasabi-remote:src-storage/app_data

筆者の環境では、

Total objects: 769 (769)
Total size: 454.601 MiB (476683987 Byte)

という結果になりました。

今回は約455MBと比較的小規模ですが、この数字はあとでBackblaze B2側と比較する重要な基準になります。

いきなり同期せず、まずはドライランを行う

rclone syncは非常に便利ですが、その名前の通り「同期」を行うコマンドです。

移行先との差分によっては削除や上書きも実行されるため、筆者はいきなり本番を流すことはほとんどありません。

まずは--dry-runを付け、実際には転送を行わず、どのような処理が実行されるかだけを確認します。

rclone sync \
    wasabi-remote:src-storage/app_data \
    b2-remote:dest-backup/app_data \
    --dry-run \
    -P \
    -v

今回の結果は次の通りでした。

Transferred:      454.601 MiB / 454.601 MiB, 100%, 318.497 MiB/s, ETA 0s
Transferred:          769 / 769, 100%
Elapsed time:          3.0s

全769オブジェクトについて問題なく処理できることを確認できました。

ドライランで異常がなければ、本番へ進みます。

本番同期を実行する

確認が終わったら、--dry-runを外して実際の同期を行います。

rclone sync \
    wasabi-remote:src-storage/app_data \
    b2-remote:dest-backup/app_data \
    -P \
    --transfers 4 \
    --checkers 8

今回は並列転送数を4、差分確認を8として実行しました。この値は回線速度やCPU性能によって最適値が異なりますが、個人サーバー程度であれば十分扱いやすい設定です。

今回のデータ量では、同期自体は数秒程度で完了しました。ローカルディスクを経由していないため、サーバー側の空き容量を気にすることなく作業できたのは大きな利点でした。

移行後は必ず整合性を確認する

同期が終了したら、「終わった」で済ませず、必ず移行先を確認します。まずはBackblaze B2側で同じように容量を集計します。

rclone size b2-remote:dest-backup/app_data

結果は、

Total objects: 769 (769)
Total size: 454.601 MiB (476683987 Byte)

となりました。

移行前に確認した

  • オブジェクト数
  • 総容量

の両方が完全に一致しています。さらにBackblaze B2のWebコンソールでもファイル数と容量を確認し、問題なく反映されていることを確認しました。

ここまで確認できれば、データ移行は完了です。

おわりに

今回の移行作業そのものは数分で終わりました。しかし、本当に時間を掛けたのは「どのストレージへ移るか」を考えることだったように思います。

以前のWasabiでは、Timed Deleted Storageを意識してアプリケーションの設定まで調整する必要がありました。

もちろん、その経験があったからこそ、料金体系だけではなく「普段どのようなファイルが生成・削除されるのか」という視点でストレージを選ぶようになりました。

オブジェクトストレージは、容量や価格だけを比較してしまいがちです。

しかし実際には、アプリケーションの動作と料金体系が噛み合っているかどうかの方が、長く運用していく上では重要なのだと改めて感じています。

次回は、このBackblaze B2をLinuxへマウントし、NextcloudやPiwigoなどのWebアプリケーションからローカルストレージと同じ感覚で利用できるようにする構成をまとめます。

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