はじめに
高松の夜もいよいよ最終日、3日目の夕飯。この日は、外で食べると決めていました。
というのも、母からLINEでこんな提案があったからです。
「後は骨付き鶏だね」
骨付き鶏。
名前からして、鶏肉を骨付きのまま調理したものなのでしょう。わざわざ母が勧めてくるということは、香川ならではの何かがあるはずです。
そこで調べてみたところ、香川県丸亀市発祥のご当地グルメであることが判明。
鶏の骨付きもも肉を、ニンニクや塩コショウなどのスパイスで豪快に焼き上げた料理とのこと。
これは食べておきたい。そう思ったものの、ここで一つ問題が発生しました。
持ち帰りという選択肢
当初は、骨付き鶏を持ち帰って宿でいただくことを考えていました。
何しろ、今回の旅では夕飯を宿で済ませることが多く、これならば食後すぐに休むことができます。
しかし、調べれば調べるほど、持ち帰りという選択肢に疑問が生じてきました。
- ニンニクをふんだんに使用した強烈な味付け
- 皮をパリパリに焼き上げた、油たっぷりの肉
- 骨付き肉ならではの食べにくさ
……これ、ホテルの客室で食べるものなのでしょうか。特に問題となるのは、ニンニクの香りと油です。
翌日も使う客室を、自分一人の夕飯でバイオハザード状態にするわけにはいきません。
となれば、店内で食べるしかありません。
しかし、もう一度高松の商店街まで足を運ぶだけの体力は残っていませんでした。
何よりも、この時点で筆者が使い果たしていたものがあります。
対人リソースです。
対人リソースの枯渇
旅行中、筆者は一人で行動することを好みます。
自分のペースで歩き、自分の判断で目的地を変え、気になった場所があれば立ち寄る。
この自由度こそが一人旅の醍醐味です。
その一方で、店員さんとのやり取りや、慣れない店での注文など、人とのコミュニケーションには相応の気力を使います。
この日は既に、その気力を使い果たしていました。
とはいえ、せっかく高松まで来ているのですから、骨付き鶏は食べたい。
となると、条件は次のようになります。
- 宿から近いこと
- 店員さんとのやり取りが極力少なく済むこと
- 本場の骨付き鶏を食べられること
- 納得できる価格であること
そんな都合のいい場所があるのでしょうか。ありました。
駅ビルです。
Chicken in the Station
高松駅の駅ビルならば、宿からの移動距離はごくわずか。
飲食店も複数入っているため、店の雰囲気を見て判断することができます。
何より、駅ビルの飲食店ならば注文から会計までの流れも分かりやすい。そして、この選択は大正解でした。
しっかりと骨付き鶏を提供しているお店があったのです。
メニューを確認すると、焼き上がりまで15分以上かかるとの注意書き。全く問題ありません。
むしろ、注文を受けてからじっくり焼き上げるのであれば、待つだけの価値があります。
こうして、今回の旅行で初めてとなる「外でいただく夕飯」と相成りました。
もっとも、フェリーの船室やホテルの客室でいただいた食事も、広義の意味では外食です。
……そのあたりは、言葉の定義ということで。
どーん。
注文を終えて待つこと、およそ20分。

運ばれてきた骨付き鶏を見て、思わず変な笑いが出ました。
でかい。
いや、骨付き鶏なのですから、ある程度の大きさは予想していました。

実物は想像を超えていました。
その大きさを比較する対象として、皿の上にはキッチン鋏が置かれています。
肉を切り分けるための鋏なのですが、これが比較対象として実に分かりやすい。
普段、家庭で使うような鋏と並べてなお、この存在感。
そして、付け合わせは生キャベツ。セットの白むすびと味噌汁。実に潔い構成です。
ガツンとくる味
まずはキッチン鋏で肉を切り分け、一口。
表面には、ニンニク、塩コショウ、スパイスがしっかりと効いています。
一口目からガツンとくる味付け。そして、パリパリに焼き上げられた皮。その下には、しっかりとした噛み応えのある肉が待っています。
そして何よりも。
肉汁です。
噛むたびに肉の旨味と油が口の中に広がります。なるほど、これは強烈です。
ここで、付け合わせが生キャベツだけだった理由が分かりました。この濃厚な味付けと油を受け止めるのに、余計な味付けは必要ありません。
生キャベツの水分とさっぱりした食感が、口の中をリセットしてくれます。
そして、もう一つ重要な役割を果たすのが白むすび。これも、単に肉と一緒にご飯を食べるという話ではありません。

鶏油を吸わせて食べるのです。
肉から染み出した油には、ニンニクやスパイス、鶏の旨味がたっぷりと含まれています。それを白むすびに吸わせる。
これがまた、美味しい。
白むすびがセットである理由が、ここで完全に理解できました。下手に味の付いたご飯では、この油を受け止めきれません。
白いご飯だからこそ、鶏の旨味を余すところなく楽しめるわけです。
合理的な食事
ここから先は、ほとんど作業のようなものでした。
- キッチン鋏で鶏肉を切り分ける
- パリパリの皮と肉をいただく
- 白むすびで鶏油と旨味を吸い取る
- お味噌汁で口の中を整える
- 再び鶏肉へ
この繰り返しです。肉を食べれば油が出る。油が出れば米が進む。米を食べれば、また肉が欲しくなる。お味噌汁が次の一口への準備を整えてくれます。
何とも合理的な永久機関の完成です。気がつけば、あっという間に完食していました。
いやはや、これは美味しい。
そして、ここで新たな興味が湧いてきました。今回いただいたのは、駅ビルの飲食店で提供されている骨付き鶏です。
それでこの美味しさなのですから、骨付き鶏の代表格である『一鶴』をはじめとした名店では、一体どれほどのものが出てくるのでしょうか。
これは、次回の高松訪問に向けた宿題としましょう。
また一つ、この街に戻ってくる理由ができました。
回避されたバイオハザード
満腹になって宿へと戻ります。
そして、ここで気づいたことがありました。
ニンニクの香りが、しっかりと漂っています。
食事を終えて店を出たというのに、衣服にはあの強烈な香りが残っていました。
これが名店の骨付き鶏だったら、服は一体どうなっていたのでしょうか。そして、もし持ち帰りを選んでいたら。
宿のエレベーターに乗り込み、客室へと向かう間、あのニンニクの香りが漂い続けていたことでしょう。
下手をすれば、エレベーター内に残留する香りで、他の宿泊客にまで影響が及んでいたかもしれません。
そして、客室で容器を開けた瞬間。バイオハザード、発生。危ないところでした。
持ち帰りをやめ、店内で食べると判断したのは正解だったようです。
食べる前に考えていた懸念が、食べ終わった後に実証されるという、何とも分かりやすい結果となりました。
撤収準備
宿に戻ってきたところで、この日の行動は終わりです。
しかし、まだやるべきことが残っています。翌日は旅行最終日。つまり、撤収のためのパッキングです。
これまでに購入したものを整理し、荷物をまとめ、翌朝の行動に支障が出ないよう準備する必要があります。
普段ならば、疲れ切った状態での荷造りは面倒な作業です。この日は違いました。
骨付き鶏をしっかり食べ、肉と油と炭水化物を補給したおかげで、気力が戻ってきたのです。
先ほどまで枯渇していた行動リソースが、ここに来て回復しました。
骨付き鶏とは、食事であると同時に、撤収作業のための燃料でもあったわけです。
母の一言から始まった、この日の夕飯。
結果として、香川の名物を堪能し、宿の衛生環境を守り、翌日の準備に必要な気力まで手に入れることができました。
そして、次回の高松訪問に向けた宿題も一つ追加。
最後まで、無駄のない夕飯となりました。
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