元々大好きな作品『真打』のソロプレイ可能版が、さらに凄まじいブラッシュアップを遂げていました。

プレイヤーは若手の落語家となり、ライバルとネタを出し合います。季節に応じた8回の落語会の中で、
- 噺(はなし)を高座にかけ
- 称号を集め
寄席を最も盛り上げた者が勝者となります。
一見、風流なテーマゲームに見えますが、その実態はガチガチの条件戦が絡み合うトリックテイキング(トリテ)。しかも、本来ソロプレイが成立しないはずのこのジャンルを、見事な仕掛けで「1人極上パズル」へと昇華させていました。
このゲームの好きなところ
1. 落語という衣をまとった「トリックテイキング」
本作の最大の魅力は、「トリテの複雑なシステムが、落語のテーマと完璧にシンクロしている点」に尽きます。
カードの数値はすべてユニークで、それぞれに「滑稽噺」「人情噺」「怪談」といったスート(色)が存在します。落語の大ネタほど数値が高く、前座噺は低いため、「『牛ほめ』と『芝浜』だったら、どっちがトリ(勝利)を取るか」が直感的にわかります。初心者には見えにくい「勝ちどころ」が、テーマのおかげで自然と見えてきます。
さらに、以下の要素がトリテのシステムと見事に合致しています。
- 夏の怪談噺は+1点 =「トリックボーナス」の概念
- 季節の演目で称号獲得 =「マストフォロー」への動機付け
- ジャンルを揃えるとボーナス =「セットコレクション」
初心者が忌み嫌い、上級者が好むトリテの「複雑な条件戦」を、落語というテーマが見事に受け止めています。
2. 戦略としての「意味がある負け方」
普通のトリテ以上に、「負けること」に強い意味があるのも特徴的です。
トリを取った(トリックの勝者)プレイヤーほどカードの補充が後回しになるシステムのため、「ここぞという本番で勝つために、今はあえて美しく負ける」という場作りが重要になります。
これがソロプレイ(変則ドラフト)になると、さらにカウンティングによる「勝敗のコントロール」が肝となり、脳のメモリをフル活用させられます。
3. トリックで負けても勝てる「セットコレクション」
ボーナス要素である「称号」の獲得条件には、以下のようなものが含まれます。
- 特定の噺のジャンルを演じる(スートを集める)
- 点数の低い噺をあえてかける(弱いカードを出す)
これにより、「トリック(勝負)には負けているのに、全体の得点(評価)では勝っている」という不思議な状況がゲームをさらに面白くさせています。
「成立しないはずのソロゲーム」を成立させている異様さ
トリックテイキングとは、本質的に「相手の手札と意思決定を読む」ゲームです。相手が何を持っているか、どのタイミングで勝ちに来るかという「他者との心理戦」が核にあるため、本来はソロプレイが最も成立しにくいジャンルです。
ところが本作は、その読み合いの代替物を「変態的(褒め言葉)」な2つの仕掛けで成立させています。
① オートマ(AI)ではなく“スコアアタック”で縛る
ソロモードは、ライバルに勝つこと以上に「自分の得点をどこまで伸ばせるか」という、自分自身との極限の戦いになります。「どの落語会でどの演目を出すか」「季節ボーナスをどう拾うか」が複雑に絡み合うため、「このシナリオでは全力で勝ちに行く」「ここは勝ち数をコントロールする」というジレンマが、1人プレイでも完璧に再現されています。
② 『TRPG落語編』がもたらす、不確実性の「特殊効果」
前作のPocketにはなかった新要素が、プレイヤーの計算を狂わせます。
- 『インタラクティブ死神』:出目が奇数ならカード交換
- 『インスマウス長屋』:配置済みカードと入れ替え、全落語会の勝敗を再判定
- 『積みゲー幽霊』:4以上で手札交換
これらにより、対人戦の「相手が何をしてくるか分からない不確実性」を、ランダム性+強制効果で見事に再現しています。
現に私がプレイした際、「よし、年末に満を持して『芝浜』を出したぞ!」と思った瞬間、『インタラクティブ死神』が発動。相手に『芝浜』を奪われて演じられ、理不尽に負けるというドラマが起きました。この、ほぼ必勝のパターンが引っくり返される異様さ(理不尽さ)こそが、最高に巧妙で、ゾクゾクしました。
このゲームの少し残念なところ
ルールブックが同梱されていない(Web参照)
コストカットやパッケージを極限まで抑えるためとはいえ、ルールを読むためにインターネット環境が必要なのは少々残念です(とはいえ、10分ほど読み込めばすっと頭に入っていく美しい導線ですが)。
スリーブとパッケージのジレンマ
カードが主体のコンポーネントゆえの宿命ですが、カードを保護するためにスリーブに入れると、元々のコンパクトなパッケージに収まらなくなってしまいます。(尤も、カードサイズが特殊すぎた初代『真打』の苦労に比べれば、贅沢な悩みではあるのですが……!)
まとめ:1人で編み上げる、完璧な「一席」
元々あった「落語の要素」を見事に抽象化した粋なイラストや、ルールそのもののシンプルさはシリーズ共通の魅力として健在です。
その上で、
- ソロプレイ可能なトリックテイキングという特異性
- 追加コンポーネント(ダイス)のノイズを感じさせないゲーム性
- 数々の条件戦がもたらす深い戦略性
が見事に融合した、実に入り組んだ、そして見事な作品でした。
トリテに悲喜こもごもがあるかた、そして「制限の中で最適解を叩き出すパズル」が好きな方には刺さる作品です。