月: 2026年11月

ピボット旅行2026-27『il vento d’oro』

はじめに

このタイトルを聞いて、ピンとくる方は多いと思います。

アニメ『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』、そのイタリア語タイトルが『Vento Aureo』。そして『il vento d'oro』といえば、敵へのトドメで流れる、いわゆる「処刑用BGM」として知られるあの曲です。

MLBオールスターでも大谷翔平選手が入場曲としてリクエストしたことで話題になりました。そんな曲が、今回のエントリーの鍵となります。

……鍵というよりは、契機と呼んだ方が正確でしょうか。なにしろ、今回立ち向かう相手は敵スタンド使いではありません。自分自身が溜め込んだ、ある種の負債です。

記録負債という言葉

筆者には、日課と呼べるものがいくつかあります。

  • 毎日のWordPress公開
  • ほぼ日手帳への記録
  • ZENタイルの記録

こう並べると、いかにも毎日きっちりと記録をこなしているように見えるかもしれません。しかし、実態は少し違います。

大事なのは、必ずしもその日のうちに全部を終わらせることではありません。最終的に帳尻が合えばいい、というのが筆者のスタンスです。記録を溜めておいて、後からまとめて処理することもあります。

その結果として発生するのが、記録負債。記録するべき事柄がなくなるわけではありません。単に未来の自分へ仕事を先送りしているだけです。

そして、未来の自分は大抵、別のことをしています。こうして発生した負債を返済するため、筆者は定期的に時間を設けています。

お金の記録は、ライフログである

今回の返済対象は、旅行中のお金の記録です。宿に戻ったら、まずは大事な記帳作業が待っています。お金といっても、ここで記録するのは入出金です。

お金の動きは、単なる家計簿の数字ではなく、自分がどのように生活していたかを物語るライフログでもあります。

  • 臨時収入。めったにありません。
  • 衝動買い。こちらは、とてもよくあります。
  • 急遽、病院に行くことになった記録。

普段の生活で何にお金を使い、何が予定外に発生し、どこで判断を変えたのか。そうした出来事が、金額とともに残ります。下手に感情だけを記録するよりも、よほど生々しいものが見えてくることもあります。

筆者がこの記録に使っているのが、セルフホストしている家計管理アプリのFirefly IIIです。

比較的シンプルな操作で記帳でき、検索も速い。口座単位で管理できるため、現金で支払ったのか、カードを使ったのかといった違いも追跡できます。今回の旅行では、これが実に重要な意味を持ちます。

  • どこで、何に、いくら使ったのか。
  • それだけでなく、いつ使ったのか。

記録を積み上げていけば、旅行中のお金の動きを完全に物語る指標になります。 ……問題は、その物語に登場する数字を、自分自身で支払っていることです。

自分の血液が流出する瞬間

旅行中の出費を記録するということは、レシートや領収証を確認しながら、自分が使った金額を改めて直視するということです。言い換えなくても:お金という自分の血液が流出した事実を、わざわざ自分の手で再確認する作業でもあります。

精神にくる作業です。一泊や二泊程度の旅行であれば、帰宅してからまとめて記録しても何とかなります。しかし、三泊ともなると話が変わります。

レシートも領収証も増えます。記録する項目も増えます。何より、時間が経過するほど「これは何の支払いだったか」を思い出す負担が増していきます。

どこかで、途中で、やらなくてはいけません。しかし、やりたくない。

この二つは、何の矛盾もなく両立します。

そして、両方やらなくっちゃあいけないのが辛いところです。

覚悟はいいか? 俺はできてる

それならば、なぜ朝一番でやらなかったのでしょうか。

旅行記を書いているときには、筆者はしばしば「自動書記」とでも呼ぶべき状態に入ります。記憶が新鮮なうちに、思い出したことを勢いのまま文章へ変換していくのです。

ならば、朝のうちに記帳も済ませてしまえばよかった。ところが、お金の記録は勝手が違います。

旅行記ならば、多少の感情の揺れや記憶の細部が前後したところで、文章としての勢いを優先できます。金額はそうはいきません。

  • レシートに書かれた金額と入力した金額が一致するか。
  • 現金で払ったのか、カードで払ったのか。
  • 記録した取引に抜けがないか。

起き抜けの頭で、これらを正確に突き合わせるのは無理があります。自動書記の勢いだけでは乗り切れない。かといって、先延ばしにすれば負債が膨らんでいく。

そこで必要になるのが、作業を始めるためのスイッチです。

「覚悟はいいか? 俺はできてる」

ここで選ばれたのが、『il vento d'oro』でした。

ミュージックスタート。

トラベラーズノート、マスキングテープ、そしてFirefly III

曲を流しながら、レシートと領収証を一気にまとめていきます。

この作業で役に立ったのが、前回の記事でも登場したトラベラーズノートです。レシートを貼り付け、必要に応じて簡単なメモを残し、それを確認しながらFirefly IIIへ記帳していく。

単にレシートを保管するだけではありません。旅先での支出を振り返り、記録と記憶を結びつけるための作業台として機能してくれました。そして、ここでもう一つ、思わぬ援軍が登場します。

マスキングテープです。

今回、輪行を諦めたことで、当初の予定とは少し違う荷物を携行することになりました。その中に入っていたマスキングテープ群が、ここで役に立ったのです。

レシートを貼り付け、整理し、必要な情報を残す。旅先での記録という観点では、非常に相性のよい組み合わせでした。もっとも、これらを持ってこなかったとしても、筆者はおそらくロフトでほぼ日手帳と一緒に買っていたでしょう。

必要な道具がなければ、現地調達すればいい。旅先での買い物には、そういう側面もあります。

……そして、そうやって増えていく出費もまた、いずれFirefly IIIに記録されるわけです。

無駄無駄無駄ラッシュ、そして17時

『il vento d'oro』の勢いを借りて、次々とレシートを処理していきます。金額を確認し、支払い方法を確認し、取引を登録する。

無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!

もちろん、ここで言う「無駄」は、記帳作業そのものを指しているわけではありません。あくまで、積み上がった消費金額に対する感想です。

曲の勢いに乗って、記録負債を一気に返済していきます。

そして、作業開始から約一時間。

ついに、旅行中の支出記録が完成しました。

これで、どこで、何に、いくら使ったのかを振り返るための記録が揃いました。レシートも整理され、Firefly IIIへの入力も完了。先送りにしていた仕事が、ようやく片付きました。

そして時計を見ると、17時。

「つけの…… 領収証だぜ」

と言いながらの次の出費へ向かうため、財布を持って宿を後にしました。

...To Be Continued

ピボット旅行2026-断章『自分へのマウント』

はじめに

この旅行の0日目、つまりフェリーに乗った日に、トラベラーズノートを購入しました。

そして、「あるのがいけない!」でお茶を買っても、高松商店街の探索は続きます。

ルピシアからそう遠くないところにロフトがある。せっかくだから行ってみよう。そうして立ち寄った店内で、筆者はほぼ日手帳を見つけました。翌年分のアベック版です。

そこで、ふと思ったわけです。

「これ、旅先で買うの?」

いや、旅先だから買うのです。トラベラーズノートに続いて、ほぼ日手帳まで旅先で購入する。今回は、そんなお話です。

未来の自分にマウントを取る

筆者は2021年1月から、ほぼ日手帳の全日付を埋め続けています。

毎日欠かさず書いているわけではありません。ある程度たまったところでまとめて消化する、いわば積み残しの一括処理方式です。それでも、日付に空白を残さず続けていることには変わりありません。

そんな性分ですから、毎年の手帳購入は、いつしか楽しみではなくなっていました。

翌年版の発売に合わせて購入する。毎年決まった時期に発生する、避けては通れない定例作業です。たとえるなら、サブスクリプションの更新でしょうか。必要なのはわかっている。やらなければ困る。しかし、いざその時期が来ると、なんとなく面倒くさい。

筆者にとって、ほぼ日手帳の購入はそんな作業の筆頭になっていました。しかし、高松のロフトで商品を眺めているうちに、考えが変わりました。

これ、未来の自分にどや顔を決められるのでは?毎年、翌年のほぼ日手帳が発売されるたびに、筆者はこう考えることができます。

  • 「2026年の俺は、旅先で新しいものを買ったぞ?」
  • 「お前はどうなんだ?」
  • 「その時の自分に負けていいのか?」

……これは強い。毎年の手帳購入という、どうしても発生するイベント。そのたびに、過去の自分から挑戦状を突きつけられるわけです。

しかも、相手は自分自身。勝ち負けを決める審判も自分自身です。いくらでも言い訳はできますが、いくらでも言い返されます。

これほど面倒で、これほど長続きしそうな仕掛けもありません。

ほぼ日以外の選択肢

とはいえ、今回の買い物は、ほぼ日手帳から別の手帳へ乗り換えようという話ではありません。

筆者が当初考えていたのは、ほぼ日以外にも、ある程度規格化されていて、商品としての姿が明確で、さらに自分好みにカスタマイズできる手帳を持つことでした。

もうひとつ、忘れてはいけない条件があります。母が作ってくれた、特製の手帳ポーチです。これがある以上、手帳だけを別のものに替えれば済むというわけにはいきません。今さら、このポーチを使わない選択肢は端っからありません。

今回は、翌年分のほぼ日手帳アベック版を購入しました。ついでに、カスタマイズ用のパーツも。

いつもの手帳を、いつもとは違う場所で買う。

たったそれだけのことですが、筆者にとっては毎年の定例作業に、新しい意味を与える買い物になりました。

記憶にフックを仕込む

ここで重要なのは、単に翌年分の手帳を早めに手に入れたことではありません。

その手帳を、どこで、どんな経緯で買ったのか。

この記憶こそが、今回の買い物の本体です。心理学には、エピソード記憶という概念があります。自分が経験した出来事を、そのときの状況や場所、感情などと結びつけて覚える記憶です。

今回の手帳には、高松の商店街を歩き、ルピシアの近くにあるロフトへ立ち寄り、そこで「旅先だから買う」という結論に至った一連の出来事が付随しています。

毎年、決まった時期に購入する手帳とは違います。

2026年の手帳には、2026年の旅先で買ったという固有のエピソードがあるのです。そして、この記憶は、手帳を使い続ける限り、何度も思い出す機会があります。

  • 翌年分の手帳を購入するとき。
  • 分冊になっているアベック版を切り替える、半年ごとのタイミング。
  • 何より、文章を書いていて筆が止まってしまったとき。

今回の買い物は、そんな場面で記憶を呼び起こすフックになるはずです。

手帳を開けば、高松で買ったことを思い出す。高松で買ったことを思い出せば、あのときの自分が、未来の自分に向けて仕掛けを施したことも思い出す。そして、あの言葉が蘇ります。

「2026年の俺は、旅先で新しいものを買ったぞ?」

毎年の手帳購入を、単なる義務的な更新作業で終わらせない。過去の自分が、未来の自分を動かすための仕組みを作っておく。手帳という、日常的に使う道具だからこそ、この仕掛けには意味があります。

おわりに

筆者は今回、翌年分のほぼ日手帳を買いました。ただ、それだけではありません。

未来の自分に向けて、挑戦状を残しました。来年、手帳を更新するとき。半年後、新しい冊子を開くとき。あるいは、何も書けずに机の前で固まっているとき。

そこには、高松で手帳を買った自分がいます。

「2026年の俺は、旅先で新しいものを買ったぞ?」

さて、未来の筆者は、この問いにどう答えるのでしょうか。

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