IDEA SPHEREとして、8年ほど前の記憶を。
発端
今でも乗っているブロンプトンで、(当時は1年も発っていない新車でした)奥秩父から祖父宅へと向かう途上です。
見通しはいいが延々と続く、なかなか骨の折れる上り坂の麓にさしかかろうかという中、
前方に二人のロードバイク乗りがいました。
- 一人はフルカーボンに高級コンポーネント、引き締まった体つきの年配の方。
- もう一人は、明らかにおろしたてのピカピカのロードに乗った30代くらいの男性
こちらを見るなり、二人がニヤニヤと笑ったのを覚えています。(特に年配の方)
やがて坂道にさしかかり、しばらくして、後ろにいた新しいロードの方が、勢いよく私を抜いていきました。
「おお、飛ばすなあ」
ぐらいの心境です。そもそも速度に差がある小径車とロードバイク。競うつもりは端からありません。
違和感
ところが、しばらくすると前方の自転車(というよりも自転車乗り)に違和感がありました。
- 明らかに速度が落ちています。
- ペダリングが不安定。
- 脇腹をかばっているのが遠目にも分かります。
差は、少しずつ、しかし確実に縮まっていったわけです。
斜度が一番きつい区間を越え、ようやく平坦に近いところへ出た瞬間、私はそのロードを抜きました。
すると、後ろで見ていたであろう年配のローディが、すごい勢いでのぼってきて、新しいロードの前に立ち、何かを強い口調で言い始めました。
「こんなのに負けてちゃ、上達しないぞ」
「こうやってダンシングするんだ」
その瞬間、流石に気づきます。
私は当て馬にされたのかと。

- 小径車。
- 折り畳み。
- ギアも少ない。
- 前にバッグ。
- 普段着
- ビンディングも無し。
彼らから見れば、極上の“かませ犬”だったのだと思います。
物語の終わり
しかし、彼等には3つの誤算がありました。
地の利
祖父宅の近くとあるように、実質地元民です。どこで力を使い、キツいところと楽なところはどこか? 適切な力配分は? と体で知っていたこと。
「小径車が有利になる状況」
- 慣性モーメントの小ささ
- ロードの700Cホイールに比べ、16インチのブロンプトンのホイールは圧倒的に軽く、回転させ始める(あるいは加速を維持する)ためのエネルギーが少なくて済みます。
- 低速域での粘り
- 急勾配で速度が落ちた際、大きな車輪を回し続けるのは筋力的に大きな負担(高トルク)がかかりますが、小径車は軽い力でクルクルと回し続けることが可能です。
「戦力の過小評価」
これが最も致命的。
年配のローディーが犯した最大のミスは、「乗り手というエンジンの性能」と「経験値」を無視したことです。
こんな、素人に毛が生えた(ように見える)私を、小径車というだけで判断。
なにせカーボンとクロモリフレーム。軽さは歴然です。ギアもウェアの性能も明らかです。初心者に自信をつけさせるには十分な理があったのでしょう。
しかしながら、ロードの方々はブロンプトンのしなやかな剛性と「長距離を淡々と走ることができる『折りたたみ』自転車」という認識が欠けていて、私はその乗り方に合っていた。
ここで思うこと
この出来事を未だに昨日のことのように思い出すのは、私の普段のサーバ運用のスタイルと重なるからです。
「目的を見失ってはいけない」
サーバにしても、自転車にしても、その目的の本質は「安全性」です。特に、自転車はITと異なり「切り戻し」ができません。(できたらそれこそ魔法か何かです)
何かに勝つのは確かに重要ではありますが、「本質を見失っていないか?」「その勝負に適した獲物は?」「相手が有利、自分が不利な状況は?」を自答していく覚悟が問われました。
「相手に敬意を払う」
これは父が生前言っていた
「戦う相手には常に敬意を払え。その上で全力で叩き潰せ」
という言葉。これには続きがあり、父が夢枕に立ち
「これは、敬意を払わないと必ず慢心を生む。その慢心は油断になるという意味だからな」
とわざわざ但し書きをしたほどです。
まとめ:「道具に使われるか、道具が選ぶか」
またこれを引き合いに出しますが、『ハリー・ポッターと賢者の石』のオリバンダー翁の
The wand chooses the wizard, Mr. Potter. It's not always clear why
「杖が魔法使いを選ぶのです、Mr.ポッター。何故そうなるかは、はっきりとは分かりませんが」
に通じるものがあります。
高価な道具を使うことで自分が強くなったと錯覚してしまう。これは「自転車を楽しむ」ことではなく「他者と比較して優越感に浸る」ことが目的化している状態です。
抜かれた後に新人に説教を始めた年配者も、結局は「自分の見立てが外れた恥ずかしさ」を新人に転嫁しているに過ぎません。本来、自転車は自由な乗り物であり、他者を格付けするための道具ではないはずです。
結局の所、「道具と使い方、その覚悟」が問われる出来事だったので、未だに鮮明に覚えているんだろうなと思います。
『フルメタル・パニック ふもっふ』の『仁義なきファンシー』の
「貴様はひとつミスを犯した」
「敵の戦力は過小評価しないことだ。」
という真理を持って、本稿を締めくくりたいと思います。