再掲しますが『ハリー・ポッターと賢者の石』のオリバンダー翁の言葉

The wand chooses the wizard, Mr. Potter. It's not always clear why.
「杖が魔法使いを選ぶのです、Mr.ポッター。何故そうなるかは、はっきりとは分かりませんが」

これをまたもや引き合いに出し、「前の魔法使いを選んだ杖」をどう制御したかというお話です。

降ってわいた幸運

本当に些細なきっかけで「カメラの引き取り手を探している人がいる」という家族からの依頼に二つ返事。

「まぁ、何らかの収穫はあるだろう」程度の認識でしたが、その認識を遙かに上回るものがありました。

OLYMPUS E-P5 レンズ付き。

一瞬、自分の目を疑いました。というか三回ぐらい確認しました。

空き箱だけかと思えば

  • レンズ
  • バッテリー
  • 充電セット
  • オプションストラップ
  • カメラカバー
  • カメラケース

と、メモリーカードを除く全てがそこにありました。

筆者はその後継であるE-P7を使っていますが、その前々モデルは眠気も一週間の疲れも吹っ飛ぶものです。

試し撮りの違和感

早速、試し撮りを行いますが、大きな「?」がつくもの。普段のフィギュア撮影を鑑みても

「何かが違う。このレンズ、ここまでズームしないはず」
「なんでこんなにブレるんだ? (15年ぐらい前に買った)E-PL1でもここまで揺れないぞ?」

が最初に思ったこと。広角なのにやたらとズームしている。標準レンズとほぼ同等の60mmがやたらと近い。マイクロフォーサーズの距離感は体で知っているのに、その体感が「明らかに違う」と見て取れるもの。

では、故障か? それはあり得ません。傷一つ無いボディにレンズプロテクターと純正アクセサリ。そしてボロボロに読み込まれたマニュアルは「大切に扱われた代物」という明白なサインです。

そこで、検証を行います。

設定の見直し

設定の中に答え(というか前の持ち主が残した罠)の一つがありました。

それは「デジタルテレコン(カメラ内部でズームする機能)がOn」になっていたという罠。

これを解除して、ようやく見慣れた画角が蘇りました。これを伴って、終わりつつある紅葉を撮りに出かけます。

屋外での検証結果

冬の澄み切った空気での撮影は成功。特に広角レンズの描写力には感動です。紅葉の赤と青空がしっかり決まっています。

これで満足……という訳にはいきませんでした。

カメラからの挑戦状

さて、撤収するかと言うときに、カメラが語りかけるような「声」が聞こえてくるかのようでした。折しも作業用に見ていた『アカギ』の盲目の裏プロ、市川のこの言葉が引っかかったのです。

「まだ半分しか済んでない そうだろう?
 君はわしに向けて引き金を引いた……
 ならば自分に向けても一度引くべきだ
 それでこそ この場は丸く収まろうというもの……
 違うかい? アカギくん…………」

つまり「撮ったときのもう一つの違和感」である「ブレ」を確認しなければならないという、もう一つの決定的な違和感です。

この、カメラ自身からの挑戦状に等しい検証として選んだのが、筆者がよく訪れる葛西臨海水族園。

  • 格段に落ちる光量
  • 動く被写体
  • 多種多様な光源

と、カメラの「ストレステスト」には十分すぎる条件が揃っています。

見つけたカメラの「枷」

水槽を前にして、泳ぐ魚で撮影しましたが:「やはりシャッタースピードが遅くてブレる」でした。念のため、携行していたE-P7は問題なく撮影できます。レンズを差し替えてもです。

  • 屋外では問題なく撮影できた
  • 屋内では真価を発揮できない
  • デジタルテレコンはオフにした

ここで考えられる状況は何か? と、液晶を確認し、一つの決定的な答えを見つけました。

「そういえばISOが全然変化していない!」

です。光量が格段に落ちる屋内。ましてや水族館。ここで求められるのはISO1600を超える超高感度です。マニュアル撮影ならいざ知らず、Pモードでのこの光量はもはや何かの異常……

ではなく「カメラの設定」で、ISOが固定されていたという、もう一つの「枷」を見つけ、それを解放。

結果は歴然。そうして撮影した写真がこちら。「やはりこのカメラは大切に使われていた」という確信を持てました。

思ったこと

「この罠には気づかなかった」というよりも

「なぜ、前の持ち主はこういう設定にしていたのか?」です。おそらく、

  • 三脚大前提
  • スタジオのような強烈な光のもと
  • 細かいものを撮影する

運用をしていたのでしょう。前述した「杖が魔法使いを選ぶ」とは、「杖(カメラ)が魔法使い(使い手)の好みに合うよう、設定で最初からこうなった」と考える方が自然です。

なので、道具というものは、使い手の意志に沿って成長していく。それこそが、オリバンダー翁の言う

「 It's not always clear why / 何故そうなるかは、はっきりとは分かりませんが」

のwhyの正体だと思いました。