はじめに
ハリー・ポッターシリーズ。ハリーがダイアゴン横丁で杖を手に入れる際のオリバンダー翁の言葉。
The wand chooses the wizard, Mr. Potter. It's not always clear why
「杖が魔法使いを選ぶのです、Mr.ポッター。何故そうなるかは、はっきりとは分かりませんが」
この「何故」に焦点を当てつつ、システム開発における大事なフェイズ「要件定義」になぞらえ
- 何故これが大切なのか?
- そして、これが上手くいくとシステム開発が上手くいく(つまり、システムが魔法使いというユーザーを選ぶ)のか?
- この要件定義を日常生活に落とし込むには?
の3ステップほどで話してみようと思います。
そもそも要件定義とは?
システム開発における要件定義とは、「何を作るか」「何を実現するか」を明確にする、プロジェクトの最も土台となる工程です。
具体的には、ユーザー(魔法使い)がシステム(杖)に何を求めているのか、どのような課題を解決したいのかを徹底的にヒアリングし、その要求を機能や性能の仕様として具体化していく作業を指します。
これは、システムの設計図や仕様書を作成するための「羅針盤」を決める作業であり、「ユーザーが本当に必要とするものは何か?」を深く掘り下げ、開発チームとユーザーの間で共通の認識を築くためのものです。
これが上手くいくと?
オリバンダー翁の言葉のように、「杖が魔法使いを選ぶ」という関係性がシステム開発にも当てはまります。要件定義が上手くいくと、システムはユーザーの真のニーズに応える「まさにその杖」となり、開発全体がスムーズに進みます。
The wand chooses the wizard, Mr. Potter.
この「選ばれた状態」とは、単に機能が揃っているというだけではありません。ユーザーの潜在的な要求や、言葉にはなっていない「不便さ」までを汲み取り、それを解決する最適な形(システム)が提供されることを意味します。
要件定義が成功することで、開発の途中で「思っていたものと違う」といった手戻りや、不要な機能の開発を防ぐことができ、結果として
- 予算とスケジュールの遵守
- 高品質なシステムの実現
- ユーザー(魔法使い)の満足度向上
といった、すべての関係者にとって良い結果(システムが魔法使いというユーザーを選ぶ)に繋がるのです。
自分自身の例:スマートウォッチを選んだ理由と機種選定までの流れ
何故必要だったのか
健康診断で芳しくない数値が出たことからこの話は始まります。
加齢から来る体調不良は目に見えて明らかでしたし、「このままでは危険」と判断。一念発起して体調管理できる方法を考えました。
そのためには「今の自分がどういう状況にあるのか?」を客観的、絶対的な目線で確認する(自分自身のロギング)は必要不可欠だと結論づけます。
なぜなら、
- 節食しているのに太るのはどうして?
- 眠れないとき/眠れたときの状態でパフォーマンスの差
などを考慮しないと、どのようなトレーニングをしても非効率/或いは心身を痛めることになるのは目に見えて明らかだからです。
「どこに進むか(どのような健康を改善するか)を決めるためには自分自身の現在地(体調)を知る」
を前提として考えないと、どのような健康法/ダイエット方法を試したところで無意味。この、自分自身の体調を知るために最もシンプルな方法が
「スマートウォッチによる自分の体調の視覚化」
でした。
特に
- 歩数(動きの)管理
- 睡眠
に焦点を当てます。
逆算して必要だったスマートウォッチ
- 自分の性格上、フィットネスジムや健康管理を診てもらうというのは性に合わないし、強制されるのはそもそも嫌い。
- それなら、ウェアラブルデバイスによって自分のペースで確認する方が以下の三者にとっていい結果になる。
- 自分自身
- お金(ジムの入会費やサブスク)
- サービス提供者
と定義したのが私の「最初の要件定義」。ここが定まれば
変な健康商法や怪しいダイエットなんぞで大金と時間、健康を失いたくない。その値段を考えたら、多少の出費は投資と考える
で、どんなモデルを選ぶかを考えていきます。
つまり、要件定義と軽々に言ったところで
- 自分(顧客)にとって本当に必要な商品/サービスは何か
- そのためのシンプルな/或いはハイテクな解決手段とは
を確認しないと、要件定義の失敗は必至。その後の商品選定も単なる衝動買いに終わります。
商品選定基準
肯定要素(Affirmative)と否定要素(Negative)の2軸を元に考えました。
○ 肯定要素(Affirmative)
- 睡眠管理のためバッテリーが長持ちすること。
- 眠る前に充電のために時計を外したり、眠っている間のバッテリー切れは論外です。
- 視認性。
- 時計本来の「現在地の把握」のため、液晶がオフのままというのは避けたい事象です。
- “Watch”の名前を冠するなら、その本来機能「確実な時の刻み」は外せません。
- タフネス。
- 風雨に晒される / 水仕事による時計の故障は考えたくありません。
○否定要素(Negative)
- タッチ操作
- 多くのスマートウォッチが採用するタッチ操作は不要でした。
- べたついた手で触る可能性が高いことや時計そのものの文字の細かさは少々辛くなった年齢にさしかかっています。
- このタッチ操作による誤操作の可能性は極力ゼロに抑えたいです。
- 大きな筐体
- キーボードを使う職業であるため、大きな文字盤が手首と干渉する事態は避けたいです。
- キーボードを使うときに時計を外すのは、大前提の条件である「健康管理」という目的から逸脱します。
この時点でApple Watch / Pixel Watchの2つは対象から外れます。必要なのは機能であってブランドではないのです。
そして選ばれたGarmin Instinct
この選定基準が定まったら、後は実店舗での確認です。これはとても重要です。どんなに上記の条件に充たしたとしても、最終的な、最後の一藁は
- 「何かデザインが違う」
- 「気に入らない」
にかかっているからです。幸いにも、この目的を伝えることができれば、(良心的な大型量販店であれば)いい物を提案してくれます。この「わがまま」といえる肯定要素と否定要素全てをクリアしたのがGarmin Instinctでした。
- 下手したら3週間は持つ驚異的なスタミナ
- アプリ連携による体調(特に睡眠)管理
- タフネスさは多くのサイクリストやマラソンランナーなどの愛好者がいることで証明済み。
- 物理ボタン5つという無骨なデザインで確実な操作
- 常時表示され、直射日光でも確実に視認できる液晶
- 筐体の小ささ。40mmの直径でもOK
そして、一番大切だったフィット感。この軽さ / フィット感は、まさに「杖が魔法使いを選んだ瞬間」でした。こうして迎えられたスマートウォッチは無事に購入手続きが終わり、
- 時間
- 歩数
- 睡眠
を確実に記録し、健康改善のきっかけとなりました。
で、結局使い続けられているのか? / 効果はあったのか?
その両者ともに「肯定(Affirmative)」です。
2年半ほど使い続け、この記録を元に、食生活と睡眠習慣を改めます。それにより、特に運動を増やしたわけでもなく1年で5kgほどの自然な体重減と、翌年以降の健康診断でも数値は目に見えて改善されました。
そして、その2年半の記録を続けた2年半後。バッテリーの持ちが悪くなってきたため新たに後継モデル
Garmin Instinct E


という、新たなウェアラブルデバイスを求めたほど。こちらも「更なる軽さ」と「フィット感」により、確実な時の刻みと健康の管理に役立ってくれることでしょう。
まとめに変えて「デジタルの方がいい場合もある」
これは、「デジタルよりアナログに重きを置いている」という筆者の記事に対する突っ込みの反証となります。
睡眠を管理するというのはメモ帳などに頼るのは到底無理です。
- 何時に寝て
- 何時に起きたか
はある程度判別できるでしょう。しかし、
- 完全に熟睡状態に入ったのはいつか
- 何回ぐらい起きたのか
- どのぐらい深い眠りがあったのか
を覚えているというのはどだい無理な話です。この「睡眠管理」並びに「寝付けたのか否か」を判断するのはできません。
「常に自分自身を記録する静かな目」
はデジタルのハイテク機器である必要があったのです。
以下、『マクベス』第二幕第2場の以下の言葉。
“Sleep no more! Macbeth does murder sleep”
— the innocent sleep,
Sleep that knits up the ravelled sleave of care,
The death of each day's life, sore labour's bath,
Balm of hurt minds, great nature's second course,
Chief nourisher in life's feast.「もう眠れない!マクベスは眠りを殺した!」
— 汚れなき眠り、
心の糸のほつれを繕う眠り、
一日の命の死、疲れた労働を癒す湯、
傷ついた心に塗る軟膏、
大自然の第二の恵み、
生命の宴の主なる滋養。
私にとってのGarmin Instinctは、マクベスが殺した『心の糸のほつれを繕う眠り』を取り戻すための、デジタルな『軟膏(Balm of hurt minds)』だったという強引なオチで本稿を締めくくります。
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